生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年8月28日
 
 

生涯学習推進の効果・その2 (しょうがいがくしゅうすいしんのこうか・そのに)

キーワード : 生涯学習支援、社会教育費、学習活動、地域指標、効果分析
浅井経子(あさいきょうこ)
2.生涯学習支援と地域指標の関係、学習活動と地域指標の関係の比較
 
 
 
 
   これまで行ってきた生涯学習推進の効果分析の成果から、生涯学習支援と地域指標との関係と、人々の学習活動と地域指標との関係を比較してみることにしよう。
 添付する資料の表3は、一人あたりの社会教育費および学習関係の行動者率と地域指標との関係を表にまとめたものである。表中の相関係数の欄の数値は、それぞれの地域指標と一人あたりの社会教育費、学習・研究行動者率、スポーツ行動者率、あるいは趣味・娯楽行動者率との相関係数である。「項目がアップすると」の欄には、「アップする」あるいは「低下する」が記されているが、これは重回帰分析を使って得たt値を使って、一人あたりの社会教育費、学習・研究行動者率、スポーツ行動者率、あるいは趣味・娯楽行動者率といった説明変数がアップしたときの、「ボランティア活動率」「犯罪率」「中高年就職率」「生活習慣病による死亡率」といった目的変数の変化の傾向性を示している。「アップする」と記されている場合は説明変数がアップすると目的変数もアップし、「低下する」の場合は説明変数がアップすると目的変数が低下する傾向がみられることを表している。
 表3から、次のような傾向がみられる。
ア)一人あたりの社会教育費、学習・研究やスポーツや趣味・娯楽の行動者率がアップすると、ボランティア活動率もアップする傾向がみられる。ただし、3種類の学習関係の行動者率の場合は、ボランティア活動率との相関は低く、必ずしも明確な傾向がみられるとはいい難い。
イ)一人あたりの社会教育費がアップすると犯罪率は低下する傾向がみられるが、学習関係の行動者率では47都道府県の場合をみてもわかるように、どちらかといえば逆の傾向がみられる。もちろん、学習活動が盛んになれば犯罪が多くなるとは常識的には考えにくいので、両者に影響を及ぼす他の要因が潜んでいると思われる。
ウ)いずれの場合も相関が弱いのであいまいである。特に一人あたりの社会教育費については、「アップする」と「低下する」が混在しており、はっきりした傾向を捉えることはできない。一方、学習関係の行動者率のt値では「アップする」が多く、どちらかといえば学習関係、特に学習・研究行動者率やスポーツ行動者率がアップすると中高年就職率もアップするといった傾向がみられるのではないかと思われる。
エ)一人あたりの社会教育費、学習・研究行動者率、スポーツ行動者率、趣味・娯楽行動者率がアップすると、生活習慣病による死亡率は低下する傾向がみられる。もちろん、逆の傾向を示しているところもみられる。
 これらから大まかな傾向をいえば、一人あたりの社会教育費が高い地域ではボランティア活動率も高く、犯罪率や生活習慣病による死亡率は低い傾向がみられる。一方、学習関係の行動者率の場合は、それらが高い地域では犯罪率も高い傾向がみられ、中高年就職率についてもどちらかといえば高く、生活習慣病による死亡率は低いという傾向がみられる。したがって、一人あたりの社会教育費のような生涯学習支援の場合は市民性の育成、安全・安心、健康といった領域と関係が深く、人々の学習活動の場合は職業、健康といった領域と関係が深いのではないかと考えられる。
 このようなズレは、人々の学習活動には性格の異なる学習活動があることを示しているように思われる。社会教育費への財政投入といった生涯学習支援は人々の学習活動のために行われているものであるので、そのような生涯学習支援が影響を与える学習活動は少なからず存在するであろう。しかし、両者にズレがあることはその影響を受けない学習活動も存在していることを意味していると考えられる。このことは経験的に考えても、教育委員会や公民館の支援を受けて行われる学習活動がある一方で、カルチャーセンターで行われる学習活動や個人学習があることを考えれば、容易に理解できるように思われる。
 添付資料:地域指標と一人あたりの社会教育費と学習関係の行動率の関係
 
 
 
  参考文献
・浅井経子「地域指標との関連からみた生涯学習支援と生涯学習の構造」日本生涯教育学会論集29、平成20年9月。
・浅井経子「学習行動の効果に関する研究」八洲学園大学紀要第4号、平成20年3月。
・浅井経子「生涯学習推進の効果に関する分析」日本生涯教育学会論集28、平成19年7月。
・浅井経子「社会教育への財政投入の効果に関する研究」八洲学園大学紀要第3号、平成19年3月。
・浅井経子「生涯学習推進のための地域診断法の開発に向けて」八洲学園大学紀要第2号、平成18年3月。
 
 
 
 
 



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