生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年8月28日
 
 

生涯学習推進の効果・その2 (しょうがいがくしゅうすいしんのこうか・そのに)

キーワード : 生涯学習支援、社会教育費、学習活動、地域指標、効果分析
浅井経子(あさいきょうこ)
3.地域の生涯学習支援と生涯学習の構造
  
 
 
 
   生涯学習支援と地域指標との関係と、人々の学習活動と地域指標との関係の間にみられるズレは、一体何を意味しているのであろうか。従来までの、生涯学習支援と生涯学習の関係についての理解が実態を表していないとすると、どのように考えればよいのであろうか。ここでは一つの仮説を提示したいと思う。
■仮説1
「人々の学習活動は個人生活の向上や職業のために行うものと、仲間づくりや地域づくりのために行うものに大別でき、社会教育費への財政といった生涯学習支援はどちらかというと後者の生涯学習に関係が深く、したがって、二つの異なる性格を持つ生涯学習は、一部は重なるとしても地域と異なる関係を有している。」
 図2は図1をもとにして仮説1を示したものである。生涯学習支援・生涯学習と地域との関係の間の矢印は、現段階では方向を確定できないため双方向の矢印で示すことにした。
 仮説1は人々の学習活動は個人生活の向上や職業のために行うものと、仲間づくりや地域づくりのために行うものに大別でき、社会教育費への財政といった生涯学習支援はどちらかというと後者の生涯学習に関係が深いというものであった。このような仮説から生涯学習支援および人々の生涯学習の効果(アウトカム)についての関係を考えると、次のような仮説2が成り立つのではないかと思われる。
■仮説2
「個人生活の向上や就職のために行う人々の学習活動は就職率アップや健康の維持向上といった面で効果があり、仲間づくりや地域つくりのために行う生涯学習は市民性の育成や地域の安全・安心といった面で効果がある。」
 図3は仮説2を示したものであるが、個人生活の向上や就職のために行う人々の学習活動の場合は個々人の学習目的が効果にストレートに反映し個人的な面で効果があるが、公的資源を活用した仲間づくりや地域つくりのために行う生涯学習の場合は、直接間接を問わず地域の活性化や発展に寄与することを意図しているため地域社会の面で効果があると考えられる。
 このことは、学習目的がアウトカムに反映しているとみるもできる。しかし、一般には学習目的については各種の調査が行われたりしてさまざまなことがいわれてきたが、生涯学習の効果が学習活動の性格の違いでどのように異なるのかについてはあまり追究してこなかったように思われる。
 個々人がどのような目的で生涯学習に取り組み、どのような成果を得ているかはそれぞれに任されるとしても、仮説2にしたがえば、社会教育への財政投入等の生涯学習支援は安定した住みよいまちづくりに貢献しているということになる。現在にあっては、財政難の中、社会教育の財源が縮小の一途をたどっている地域も多い。もし仮説2が真であるとすれば、今後生涯学習が盛んになっても適切な生涯学習支援が公的な領域で行われないと、社会の安定という面で生涯学習の効果は期待できないということになりかねない。少子高齢社会にあっては財源の確保はますます難しくなるであろうから、行政は人々の社会参画意識を高めるなどの働きかけを通して、人々の生涯学習の成果が社会の安定と発展に寄与するように努める必要があるのかも知れない。
 この仮説2が真であるか否かについての検証は今後の課題としたい。その場合には因果関係ではなく、目的−手段の観点から検証することも考えられる。
 添付資料:実際の生涯学習支援と生涯学習の構造:仮説1と2
 
 
 
  参考文献
・浅井経子「地域指標との関連からみた生涯学習支援と生涯学習の構造」日本生涯教育学会論集29、平成20年9月。
・浅井経子「学習行動の効果に関する研究」八洲学園大学紀要第4号、平成20年3月。
・浅井経子「生涯学習推進の効果に関する分析」日本生涯教育学会論集28、平成19年7月。
・浅井経子「社会教育への財政投入の効果に関する研究」八洲学園大学紀要第3号、平成19年3月。
・浅井経子「生涯学習推進のための地域診断法の開発に向けて」八洲学園大学紀要第2号、平成18年3月。
 
 
 
 
  



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