生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年4月27日
 
 

佐野市の市民参画による生涯学習推進 (さのしのしみんさんかくによるしょうがいがくしゅうすいしん)

citizen participation for promotion of lifelong learning in Sano City
キーワード : 市民参画の実質化、市民参画における「私らしさ」、佐野市生涯学習推進基本構想、佐野市生涯学習推進協議会、ワークショップスタイルの諸会議への導入
西村美東士(にしむらみとし)
2.ワークショップスタイルの導入による市民参画の実質化
 
 
 
 
  【会議形式の意義と限界】
 会議形式の検討においては、各委員が一定時間、全員に意見を述べることができるため、生産的な意見をそのまま文案作成に取り入れることができる。反面、「委員が会議に慣れるまでに時間がかかる」、「協働とは異なる非生産的な構えがある委員の場合、会議では態度変容は期待できない」、「意見が対立した場合、合意形成が困難」、「行政にとって不都合な意見を生産的に対処できない」、「実質の伴わない意見であっても、それがいわゆる正論として受け止める雰囲気になった場合、対論があっても出しづらい」などの問題がある。その場合は、最終的には委員長や担当職員による文章化作業に委ねることになり、市民参画が形式化する恐れがある。
【「生涯学習都市宣言」起草文原案作成過程における市民参画の方法】
 今後の生涯学習やまちづくりの推進において、多様な市民が参画するようになった場合、メンバー全員が出席して、議論を重ねて合意形成に至るという従来の活動形態は困難になってくる。そこで、佐野市では、原案作成者(西村美東士委員)が3領域を示し(表5「宣言文原案作成者素案の構成」)、それぞれのID(推進イメージ)要素のリスト化のためにクドバス(表6「クドバスチャートの作り方」)を適用した。その結果、各領域チームはメンバーの自由なIDを効率的にリスト化することができた(図2「ふるさとチーム作成生涯学習推進ID要素クドバスチャート」)。これにより、生涯学習推進のためのID表現について、レベルアップした発想を発見することができた。また、クドバスチャートに裏打ちされたID表現をもとに、共通の構造的理解に基づく文章化作業を行うことができた。
 原案作成者は、各チームのID要素作成成果と文章化成果及び後日提出された「個人文章」から抽出されるキーワードを、3領域と協議会答申の主要な柱である「学習」「交流」「参画」のマトリックスによって分類して示した(表7「キーワードの分類」)。その分類をもとに、各チームのほぼすべての文章化成果を含み、また、ほとんどのキーワードの趣旨を組み込んだ原案を作成した。協議会は、これを、行政側の事務局を入れて会議形式で検討し、精査して宣言文案を作成した。文案の中に盛り込みきれなかった文章や、表しきれなかった内容については、「宣言文の補足説明」として裏面に掲載することとした。
【ワークショップのもつ参画実質化効果】
 ワークショップスタイルを導入した宣言文の作成過程は、次の点で、市民参画を実質化するための効果があったといえる。
(1)ワークショップによって生涯学習推進イメージが共有でき、委員の協働作業としての文章化の成果を得ることができた。
(2)その成果と原案修正結果をフォローアップするための会議を開き、ワークショップに欠席した委員も含めて「原案修正」に関わる合意形成を図ることができた。
(3)原案作成者は、フォローアップで形成された合意のほか、前年度からの協議会での検討結果も踏まえ、委員一人一人の「背後の想い」まで推察しながら、それを宣言文に反映させることができた。さらに、「宣言文」の本体部分には質や量の面からなじまない事項については、ワークショップ成果や説明資料の添付によって実質的な反映を可能にした。
 
 
 
  参考文献
・西村美東士「市民参画を実質化する生涯学習推進の方法論(序論)」、日本生涯教育学会、『日本生涯教育学会論集』29号、pp.13-22、2008年7月
・森和夫『人材育成の見える化』、JIPMソリューション、2008年8月
 
 
 
 
 



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