生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

フランスの生涯学習支援 (ふらんすのしょうがいがくしゅうしえん)

キーワード : 職業訓練負担制度、教育訓練休暇(CIF)、職業資格証書(CQP)、労働経験の認証形態(VAE)、産業共同職業訓練グループ(GRETA)
岩崎久美子(いわさきくみこ)
1.フランスにおける生涯学習の特質
  
 
 
 
   フランスの生涯学習の萌芽は、フランス革命期にさかのぼり、18世紀後半、コンドルセ(Condorcet,J. 1743-1794)の教育案の中には、すでに、学習による男女と年齢の平等、成人労働者の社会的・職業技術向上と教養向上のために一生涯知育継続の必要性についての言及がある。ヨーロッパの多くの国では、成人教育は、階級制度を背景に、民衆を無知から解放するといった農民、労働者の啓蒙教育といった側面を持ち、伝統的に民衆教育運動として各地で行われてきた。
 1960年代から1970年代は、所得水準の向上と自由時間の増加により、成人学習者の進学欲求や学習要求が高まり、先進諸国の多く、例えば、アメリカ合衆国では、高等教育機関への成人学生が急増したが、フランスでは一般の成人学習者の学習欲求は、必ずしも高まらなかった。固定的な階層を維持している階層化社会では、大多数を占める労働者階級は、教育は上中流階級を閉める有産・有閑階級のものとの認識を抱く傾向があった。特に、教育水準が低い場合は、学習に価値を認めることが少なく、それゆえ自由時間の増加は教育よりもバカンスなど休暇にあてられた。フランスのような厳しい階層化社会では、潜在的な知能・能力よりも、教育文化的環境がもたらす文化的資本の差により教育機会が決定される。また、学歴が高いほど失業率が低いという統計的な相関は厳然として存在し、硬直した学歴構造の中では、その後の学習、教育歴が社会的評価を伴う雇用、昇進に直接的に結びついてこなかった。そのため、教育に対するインセンティブが低い労働者階級に対し、国家目標である経済力強化、国際競争力の獲得につながる個人的な能力開発、資格制度整備による教育の機会均等施策などが随時考慮されてきたと言えよう。
 そのため、総じて、フランスの生涯学習支援は、個人的要請に応えるというよりは、社会的、経済的要請として労働者の能力開発といった政策的色彩が強く、現在の「生涯学習は社会戦略の中核」と位置づけるEUの生涯学習施策と連動し、産業構造の変化によって変化する労働市場のニーズに対応する高度な専門職業人の人材育成、国家経済の発展のための労働者の能力開発、教育訓練に比重がおかれている。職業教育経費は、2004年国家教育省文書(ウェッブ参照)においてフランスのGNPの1.8%を占めると記され、失業対策、雇用保障、経済競争力の強化のための労働者の職業継続教育支援は国家戦略上も大きな意味を持っている。
 職業訓練機関の約8割は民間であるが一部公的機関でも実施されている。公的機関としての職業継続訓練は、主として、国家教育省と雇用労働省(フランスでは官庁名が頻繁に変わるため正式名称ではない。日本の文部科学省と厚生労働省に相当する省庁をここではこのように呼称する)が管轄している。国家教育省では、中等教育機関や高等教育機関の施設・設備、人的資源を利用した職業継続教育が企図されるのに対し、雇用労働省の職業訓練は、主として、無資格、低学歴・低資格の失業者に対する雇用促進の性格を持っている。雇用労働省所轄機関の成人職業訓練協会(AFPA)で行われている職業訓練内容を見ると、園芸、会計・経理、観光業、繊維、コンピュータなど就職に結びつく具体的、かつ即戦力としての技能習得が志向されていることがわかる。
 
 
 
  参考文献
・吉田正晴『フランス公教育政策の源流』風間書房 1977
・市川昭午・潮木守一編著『学習社会への道』教育学講座21 学習研究社 1979 
・小林順子編著『21世紀を展望するフランス教育改革』1997年 東信堂       
・藤井良治、塩野谷祐一編『先進諸国の社会保障6 フランス』 東京大学出版会 1999
・フランス職業訓練協会http://www.afpa.fr/index.html 2005年10月26日参照

 
 
 
 
  



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