生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

フランスの生涯学習支援 (ふらんすのしょうがいがくしゅうしえん)

キーワード : 職業訓練負担制度、教育訓練休暇(CIF)、職業資格証書(CQP)、労働経験の認証形態(VAE)、産業共同職業訓練グループ(GRETA)
岩崎久美子(いわさきくみこ)
2.政府による職業継続教育支援策
 
 
 
 
  ア.労働者の自己啓発制度の整備
 第二次世界大戦後、職業訓練は、労働時間外に行われ、継続的受講や資格取得に要する労働者の負担が大きく普及しなかった。そのため、勤務時間内に教育訓練を受けることを要求する運動が労働組合を中心に生じた。その成果として、1971年に制定された「生涯教育の枠内での継続的職業教育に関する法律」により、労働者の教育訓練の経済的保証として、従業員数に応じて事業主に、賃金総額の1%前後(企業規模により負担金は異なる)を職業訓練のために支出することを義務付ける職業訓練負担制度が創設された。また、時間的保証として1年を限度(非継続的な訓練等の場合は、1,200時間が限度)とした「教育訓練休暇」(CIF)を労働者の権利として取得させることが雇用主の義務となった。教育訓練休暇を受益できる労働者の要件は、勤務年数が2年以上で同一企業での継続勤務年数が1年以上の者である。雇用主が従業員に支払った休暇中の賃金は、雇用主等 からの拠出金によって運営されている教育訓練休暇基金(OPACIF)と呼ばれる基金から雇用主に還付される。
 同教育訓練休暇制度は、財源不足(OPACIFには国から補助金)、労働者の職場を離れることの不安や抵抗感、教育訓練後の昇進・昇給に直接的結びつかないことなど、種々の理由から利用者が停滞し、1984年には教育訓練期間中の賃金保障の改正がなされた。現在、休暇期間中、通常賃金の80%の手当(1年、1,200時間以上の場合は60%)が支給される。2004年には「個別訓練受講権」(DIF: droit individual a la formation)が制定され、正規雇用の労働者は、年間20時間の教育のための時間(6年間持越し可能で120時間)を雇用主に請求することができるようになった。このことにより、休暇ではなく時間単位での研修も受講可能になったのである。
イ.資格制度の整備
 フランスでは、学歴や職業資格の有無や水準が就職や経済的社会的地位を決定する大きな要因として存在する。国民教育省は、学歴の高い順から教育水準に応じ6段階に体系化した資格(学歴)水準を策定し、それに応じて職務内容を規定している。例えば、大学リサンス(学士)以上の免状、グランゼコール修了者の水準とされるレベルI、IIでは、上級幹部職員、専門職が想定され、初等教育を終了した者、及び1年間の職業準備教育を終了した者のレベルVIでは、単純肉体労働者との対応が明示されている。国民教育省以外の省庁による職業資格についても、国の規定する職業資格はすべて、国民教育省によるこの資格(学歴)水準体系に位置づけられている。資格は、学校教育制度の中で課程修了時に取得する場合以外では、職業継続訓練により単位を累積することで取得可能となっている。
 同時に、技能・能力の認定については、1988年に職業資格証書(CQP)により、職業ごとの資格リストが整備された。さらに、2002年「社会現代化法」(loi de modernization social)により、労働の経験そのものを認証する労働経験を認証する(VAE)措置がなされるようになってきている。このことにより、アニマトゥールなどの社会教育関係者の職務経験等で得た能力が免状や資格証書と同様に公的に認証されることになった。
 
 
 
  参考文献
・藤井佐知子「フランスの資格制度−特質と課題」日本生涯教育学会年報第15号 1994年
・日本労働研究機構 『教育資格制度の国際比較調査、研究−ドイツ、フランス、アメリカ、イギリス、日本−』No.136  2003年
・日本労働研究機構 『海外労働情勢:主要国における人材育成への取組み』1996年

 
 
 
 
 



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