生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

カナダの生涯学習支援 (かなだのしょうがいがくしゅうしえん)

lifelong learning in Canada
キーワード : 州独自の教育制度、成人教育、コミュニティ・カレッジ、職業的機能に関わる学習、ボランティア活動
小川誠子(おがわせいこ)
3.生涯学習が成人教育に与えた影響
  
 
 
 
   カナダの成人教育の領域において、1972年は、二つの事実において歴史に残る重要な年であるといわれている。一つは、国内のオンタリオ州とアルバータ州において、生涯学習の観点から成人教育の重要性を問う報告書が提出されたことである(The learning society, Commission on Post-secondary Education in Ontario, 1972; A choice of futures, Commission on Educational Planning in Alberta, 1972)。もう一つは、国際的な次元において、ユネスコがフォール・レポート(Learning To Be)を発表したことである。この国内外の三つのレポートは、カナダの教育政策において直ちに反映されることはなかったが、成人教育関係者に新たな努力を呼び起こしたということと、未来の教育の姿を予告したという二つの観点から、成人教育の領域において重要な役割を果たしたといわれている。なお、カナダでは、‘lifelong learning’という言葉と同様に、すべての人々に幅広い学習機会を提供することを強調した言葉として‘lifewide learning’を用いる場合が多くなっている。
 1980年代後半から1990年代にかけて、景気後退と新保守主義の影響を受けたカナダは、より小さな政府と公共機関、民営化、個人の自助自立を促進するポスト福祉国家へと変貌を遂げた。連邦政府から州政府への予算削減と地方分権が進められたその頃、カナダの労働力を高めることを目的とした政策のなかで、生涯学習という言葉が盛んに使われるようになった。連邦政府は、グローバル化や知識基盤型経済(knowledge-based economy)に対応するために、高度な知識・技術を持った労働者を育成することを強調した生涯学習政策を展開するようになった。カナダの成人教育は、生涯学習の概念を「生涯を通じた職業的知識・技術の習得」という意味に捉えながら、もともと重視していた職業的機能に関わる学習をさらに強めた方向へと邁進している。しかしその一方で、カナダの成人教育の領域においては、このような状況を憂い、ユネスコのフォール・レポートの主張に遡り、過去を振り返りつつ同時に未来に向かって前進していかなければならないとするポスト・モダン的なスローガンの必要性を求める動きもある。
 また、1980年代後半から、教育・医療・福祉などの公共プログラムが削減された状況のなかで、人権・貧困・環境・平和・女性などの社会的課題に取り組むNPO活動が積極的に展開され、そこで活動するボランティアたちの役割が重視されてきている。15歳以上を対象とした2000年のボランティア活動に関する調査(NSGVP)で見てみると、カナダでは、26.7パーセントの人々がNPO活動にボランティアとして参加している。公共プログラムの削減という厳しい背景があるものの、人々の自発的な意思のもと社会的課題に取り組む活動・学習が民間のレベルで活発に行なわれることは注目に値することだと思われる。ただ、多くの団体が抱えている運営資金調達の問題などを考慮すると、まだまだ課題は残されている状況にあるといえよう。
 
 
 
  参考文献
・小林順子・関口礼子・浪田克之助・小川洋・溝上智恵子他編『21世紀にはばたくカナダの教育』東信堂, 2003
・Selman,G., Adult education in Canada, Thompson Educational Publishing, 1995
・Schuetze,H. & Slowey,M., Higher Education and Lifelong Learners, Routledge, 2000
 
 
 
 
  



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