生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

カナダの生涯学習支援 (かなだのしょうがいがくしゅうしえん)

lifelong learning in Canada
キーワード : 州独自の教育制度、成人教育、コミュニティ・カレッジ、職業的機能に関わる学習、ボランティア活動
小川誠子(おがわせいこ)
2.カナダの成人教育
 
 
 
 
   カナダの生涯学習の領域において、重要な役割を担ってきたのは成人教育の研究・実践者たちである。かつて、カナダ社会において、生涯教育と成人教育の概念が言い換えられ、両者には相互互換性があるという誤解を招いたことがあるが、それは、成人教育の研究・実践者たちが、生涯教育・生涯学習の普及活動において中心的な役割を担ってきたことと全く無関係ではないであろう。
 カナダの成人教育は、19世紀の職工学校(mechanics’ institute)、大学拡張、YMCA、20世紀初頭の労働者教育協会(WEA)や20世紀後半のオープン・ユニバーシティなど、ケベック州を除いてはイギリス起源のものが主流である。1935年には、英語系の全国組織であるカナダ成人教育協会(CAAE)をはじめさまざまな成人教育団体が発足し、1952年には、仏語系の成人教育団体が発足している。また、多くの人々がアメリカからカナダへ移住したという歴史的背景や、同じ移民社会として新しい国家建設に向けて類似課題をもっていたという共通認識から、カナダの成人教育はアメリカの影響も受けつつ展開されてきた。代表的な具体的例としては、1874年に始まったショトーカ運動(Chautauqua movement)の通信教育(correspondence education)や、1907年に開始されたウィスコンシン大学の職業技術教育を重視したアメリカ型大学拡張などが挙げられている。さらに1960年代には、アメリカの影響のもとコミュニティ・カレッジで学ぶ成人学習者が増大している。多くのコミュニティ・カレッジでは、職業訓練の重視、地域社会と密接な関係、オープン・アクセス(無選抜)、学生の幅広い学習ニーズに対して機会を提供することなどの社会要請に応えることが求められている。
 カナダの成人教育学者セルマンら(Selman,G., Selman,M., Cooke,M. Dampier,P.)は、成人教育を機能・目的の観点から、1)仕事に必要な知識・技術を習得するための職業的機能、2)個人として家庭や社会での役割を学ぶ社会的機能、3)個人が余暇活動として趣味や教養を深めるための余暇的機能、4)批判的思考や自己表現などを学び自己実現をはかる自己開発的機能の4つに分類している。180年近い歴史をもつカナダの成人教育では、1)の職業的機能に関わる学習が実践の中心であったといわれている。とりわけ、大学やコミュニティ・カレッジのようなフォーマルな教育機関によって行なわれる継続教育や職業訓練の役割が重視されてきた。
 この他にも、コミュニティ・センターなどの趣味やスポーツ講座、成人のための基礎教育(adult basic education)、議会制度や市民としての義務権利を学ぶ成人移民を対象としたシティズンシップ教育(citizenship education)や公用語を学ぶESL(English as a Second Language)プログラムに加えて、コミュニティ形成(community development)やNPOのボランティア活動を通じた学習活動にも期待が寄せられている。また、広大な土地を擁するカナダでは、遠隔教育の充実は常に中心課題であり、最近では、e-ラーニングを支援するシステムの開発が重要な課題の一つとなっている。
 
 
 
  参考文献
・小林順子・関口礼子・浪田克之助・小川洋・溝上智恵子編『21世紀にはばたくカナダの教育』東信堂, 2003
・関口礼子編『カナダ多文化主義教育に関する学際的研究』東洋館出版社, 1988
・Selman,G., Selman,M., Cooke,M. & Dampier,P., The foundation of adult education in Canada, Thompson Educational Publishing, 1998
 
 
 
 
 



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