生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

知識社会と生涯学習 (ちしきしゃかいとしょうがいがくしゅう)

キーワード : 知識社会、暗黙知、実践のコミュニティ、知識移転、ナレッジ・マネージメント
立田慶裕(たつたよしひろ)
2.知識社会の展開と特徴
 
 
 
 
  【展開】
 「知識を基盤とした社会」という社会観は、1960年代後半にドラッカー(Drucker,Peter F.)が提示した。ドラッカーは、「情報」ではなく「知識」の重要性とその経済における意義を論じた。しかし、1970年代から90年代にかけて各国の政府が政策方針として採用した社会観は、「情報社会」という見方であった。その背景には、情報機器としてのコンピュータ技術の発展と個人利用の普及や、それがもたらした労働や組織の変化と産業構造の変化、そして膨大な情報が、世界的な通信網の整備と並行して流され始めた背景がある。90年代以降には、情報通信技術のいっそうの発展から、企業内では管理者から労働者にいたる情報通信技術を活用した情報の共有化が進み、また地域や学校でも通信技術を活用した多様な社会的実験が展開された。
 特に、情報通信技術の中でも、地球規模でのインターネットの普及は、企業内や企業間のネットワーク化、そしてグローバルな地域間での多様なネットワーク網が形成され、企業や社会をめぐる情報と知識の環境は一変し、情報社会は高度情報社会と呼ばれるようになった。人間個人の記憶量は限られているが、コンピュータの記憶量や通信量は記憶装置と通信技術の進歩に伴い増大の一途をたどっている。そのためきわめて膨大な情報量の処理や分析が短時間で可能となり、情報の内容や質が問われ、情報が整理され活用されるものとしての知識の重要性が職場や企業活動、地域や学校で再認識されるとともに、知識を鍵概念とする多くの社会理論が展開され始めた。
【特徴】
 最初に知識社会の構想を展開したドラッカーの論に知識社会論の特徴が現れている。それは、知識を情報と区別し、その創造と活用に注目した点である。彼によれば、知識は、本に書かれているだけでは単なる情報にすぎない。その情報があることを行うために用いられてはじめて知識となるという。この知識は電気や貨幣に似て、機能してはじめて存在する一種のエネルギーだというのである。また、彼は、テイラーの科学的管理法の研究を例にあげ、労働に関する知識を大量生産方式として活用し,定着させたとみる。こうして、彼は、いろいろな分野の知識が経済における生産の中心要素になるとし、知識労働者が活躍する知識経済の社会の到来を指摘した。
 また、アメリカの文明論者アルビン・トフラーもその著書『パワーシフト』(1990年)で指摘したのは、21世紀が知識の時代になるという点だった。20世紀までの時代は暴力や富の力が権力の鍵となっていたのに対し、今後は知識の集積度や集約度が重要となり、知識を持つものが多様な権力の要となると指摘した。特に、知識が経営組織でも重要になると考え、日本企業の成功の分析から、知識創造経営という概念を展開したのが、野中郁次郎らである。これらの経営論は、知識経営論、またはナレッジ・マネージメントと呼ばれている。
 
 
 
  参考文献
・ P.F.ドラッカー『断絶の時代−知識社会の構想−』林雄二郎訳,ダイヤモンド社,1969
・アルビン・トフラー『パワーシフト』徳山 二郎訳,フジテレビ出版,1991
・野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』梅本勝博訳,東洋経済新報社,1996
 
 
 
 
 



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