生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

知識社会と生涯学習 (ちしきしゃかいとしょうがいがくしゅう)

キーワード : 知識社会、暗黙知、実践のコミュニティ、知識移転、ナレッジ・マネージメント
立田慶裕(たつたよしひろ)
3.知識社会の生涯学習の課題
  
 
 
 
  【課題】
1)ナレッジ・マネージメントの理解
 知識社会においては、個人から集団や社会のレベルまで、どのような形で知識を創造(生産)し、普及し、活用していくかというナレッジ・マネージメントが重要な課題となる。知識論の先駆けとされるポランニーは、知識を、明確に見える形となっていない知識(暗黙知)と文章や書類のように誰でもが見て理解できる形となった知識(形式知)を区分している。教師や医者など多くの専門家や熟達者には、経験と熟練を通じて暗黙知をもっているが、それが集団で活用できる形式知とならず、知識の共有がなされていない点に問題があるとされる。ナレッジ・マネージメントの課題は、個人が所有する暗黙知を集団で共有できる形式知にして活用することである。そこで、野中らは、企業で働く労働者の暗黙知を、集団での討議などを通じて形式知とし、形式知の学習から再び個人の暗黙知が創造されるというらせん型の知識の創造モデル、SECIモデル(socialization,externalization,combination,internalizationの4つの頭文字から命名)を提唱した。
2)知識の移転
 OECDの知識経営に関する報告書によると、生涯学習においても教育機関、特に学校での重要な目標は、学び方を学ぶことである。学校卒業後には、職場でも、すべての雇用者がいろいろな場所で自主的に学んで、「学習する組織」としての職場へ貢献する能力が求められる。その際に重要な点は、過去から受け継いだ伝統的な知識だけでなく、新たな学び方を学び、作りだした知識を伝えていくための、高度に転移可能な知識と技能を身に付けることである。個人から集団や組織への知識の移転だけでなく、近年は、企業間、地域間、学校間などの組織間での知識の共有化と移転への取り組みが課題となっている。
3)実践のコミュニティ
 知識社会では、知識の移転を円滑に進めながら、知識の生産と普及、活用が効率的に行われるために、研究の現場と実践の現場が区別されることがなくなり、実践の現場が知識生産の場となっていく。こうした実践のコミュニティに研究者が参加し、実践家と協働して知識を創造することが求められる。研究開発とその適用の場の区別が取り払われることが重要な知識創造の工夫となる。
 このように、ナレッジ・マネージメントを支える知識社会を形成するために、生涯学習を通じて、ナレッジ・マネージメントの認識が形成されることが重要であるが、同時に、普及と活用のためには、情報通信網の整備と活用や教育・学習に関する研究開発の支援、教育実践家のための専門的開発形態の工夫、教育実践家の役割の拡大と研究者との連携、そして資産としての知識を安定的に供給できる社会資本の形成も行われることが求められている。
 
 
 
  参考文献
・OECD,2000,'Lessons for Education:Creating a Learning System'"Knowledge Management in the Learning Society",OECD
・マイケル・ポラニー『暗黙知の次元―言語から非言語へ』佐藤敬三訳,紀ノ国屋書店,1980
・野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』梅本勝博訳,東洋経済新報社,1996
・立田慶裕他『生涯学習社会における知識創造型学習に関する総合的研究』,国立教育政策研究所,2002,
 
 
 
 
  



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