生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2013(平成25)年8月29日
 
 

生涯学習推進計画作成ガイドライン−数値目標の設定− (しょうがいがくしゅうすいしんけいかくさくせいがいどらいん−すうちもくひょうのせってい−)

キーワード : 生涯学習推進計画、数値目標、地域指標、相関、回帰分析
浅井経子(あさいきょうこ)
3.数値目標を設定する−事例から−
  
 
 
 
   講座等受講者率をアップさせることで「市民が参画・協力し活力ある社会をつくる」「安全安心な地域をつくる」「職業に就き安定した生活をおくる」といった目標の達成が可能なことが明らかになれば、次にどの程度の講座等受講者率を目標とすることが望ましいかを検討することになる。それが推進計画に設定する数値目標となる。
 今回の例で説明すると、表6は受講者率を1%アップさせたときにボランティア活動率がどれほどアップするかを学習内容別に示したもので、「講座等受講者率(全体)」の場合、受講者率を1%アップすることができれば、ボランティア活動率を0.1128%アップさせることができるという意味である。ボランティア活動率のアップの度合いが大きいのは「指導者養成・研修講座等受講者率」で、それが1%アップすればボランティア活動率は2.1518%アップする。ただし、決定係数R2の値がそれほど大きくはないので注意する必要がある。「講座等受講者率(全体)」に次いで決定係数R2の値が大きい「家庭・教育関係講座等受講者率」の場合は、受講者率が1%アップするとボランティア活動率は0.4892%アップする。なお、「体育関係講座等受講者率」の場合は単回帰よりも重回帰の方が決定係数は高かったので、決定係数の高い方を用いた。
 表7は、講座等受講者が1%アップしたときに刑法犯認知率をどの程度低下させることができるかを学習内容別に示したものである。刑法犯認知率の場合は前述したように高齢化率との相関係数の絶対値が0.668と高く、高齢化率の影響を大きく受けていると思われるため、その影響を排除する必要がある。そこで説明変数に高齢化率を取り入れた重回帰式を用いて、講座等の受講者率の偏回帰係数を使うことにした。今回は講座等の受講者数も刑法犯認知率も高齢化率も比率なので、標準化偏回帰係数は求めなかった。標準化した方がよい場合にはそれを求めればよいであろう。その結果、「講座等受講者率(全体)」が1%アップすると刑法犯認知率は0.0025%、「教養関係講座等受講者率」では0.0215%、「家庭教育関係講座等受講者率」の場合は0.015%などとなっている。
 表8は講座等受講者率が1%アップしたときに中高年者就職率がどのくらいアップするかを示したもので、相関係数が比較的高かった「講座等受講者率(全体)」と「教養関係講座等受講者率」と「市民意識関係講座等受講者率」のみを取り上げた。
 決定係数R2の値はいずれも小さいのでさらに分析する必要があるが、ここではあくまでも例としてあげているので、簡単に説明すれば、「講座等受講者率(全体)」が1%アップすると中高年者就職率は0.0202%アップする。「教養関係講座等受講者率」の場合は0.1356%アップし、「市民意識関係講座等受講者率」の場合は0.1452%アップする。
 今回は講座等受講者率とボランティア活動率、刑法犯認知率、中高年者就職率の3つの地域指標との関係をみてきたが、数値目標にあげる指標xと目指す地域像を示す地域指標yの関係式をつくることができれば、生涯学習推進計画に盛り込む数値目標を決めることができるであろう。
 【今後の課題】
 これまで述べてきた手法は数値目標設定の一つの方法である。最後に今後の課題を3つほど上げておこう。
 第一に、表6.表7、表8の決定係数をみるとそれほど高い値ではない。変数を入れ替えたりして決定係数の値をもっと上げる必要がある。
 第二に、今回は45道府県のデータを使って分析を試みたがデータサイズが大きいため、市町村レベルのデータを使うなどして、もう少しきめ細かな分析が必要である。
 第三に、表6.表7、表8で示した予測値は与えられたデータに依存するため、あくまでもデータの範囲内での予測になる。そのような限界を十分認識する必要がある。
 添付資料:表6、表7、表8
 
 
 
  参考文献
・浅井経子「生涯学習推進の効果に関する分析−ボランティア活動率、投票率、犯罪率への社会教育費の効果−」日本生涯教育学会論集28、平成19年7月。
・浅井経子「地域指標との関連からみた生涯学習支援と生涯学習の構造−生涯学習推進の効果分析を通して−」日本生涯教育学会論集29、平成20年9月。
・浅井経子「生涯学習推進の効果・その1、その2、その3」『生涯学習研究e事典』平成21年8月、平成24年3月。
 
 
 
 
  



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