生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年9月1日
 
 

子どもの読書の意義 (こどものどくしょのいぎ)

キーワード : 読書の意義、子どもの発達、読書に期待される効果、読書の効果
鈴木佳苗(すずきかなえ)
2.子どもの発達と読書
 
 
 
 
   読書は、子どもたちの社会化の過程で生じるさまざまな課題(発達課題)を乗り越えるために参考になる知識や情報を提供し、さまざまな(擬似)体験の機会を提供する媒体の1つである。社会化とは、社会性を身につけ、社会の一員となっていく過程のことである。「社会性」の定義にはさまざまなものがあるが、もっとも広義には、「その社会が支持する生活習慣、価値規範、行動基準などにそった行動がとれるという全般的な社会的適応性」、もっとも狭義には、「他者との円滑な対人関係を営むことができるという対人関係能力」と定義される(繁多, 1991)。
 子どもたちは、発達課題に関連した本を好んで読むと考えられている。個人がどのような内容の本を好んで読むかという、読書材の選択を規定する傾向性は、「読書興味」と呼ばれる。読書興味の発達理論(阪本, 1971)によれば、読書興味には「子守話期」、「昔話期」、「寓話期」、「童話期」、「物語期」、「伝記期」、「文学期」、「思索期」という8つの段階がある。たとえば、「子守話期」の4歳頃までの子どもたちは、基本的生活習慣(食事・用便・睡眠・着衣・清潔など)の自立が課題となっており、身辺の事象の名称やその用途を修得し、理解することも必要であると考えられている。この年齢の子どもたちに好まれる本には、身近な生活のことが出てくるお話や絵本などがある。毎年実施されている「学校読書調査」(毎日新聞社, 全国学校図書館協議会)では、小学生(高学年)、中学生、高校生の1か月の読書冊数に加えて、それぞれの学年でよく読まれている本のタイトルが示されており、各年齢での読書興味の違いを見ることができる。全体的な傾向としては、年少者においては読書興味の共通性が高く、年齢の増加に応じて興味の幅が広がり、それぞれの個性に合う興味を示すようになっていく。
 子どもの読書を支援していく機会がある場合には、「適書を適者に適時に」を心がけることが重要である。また、子どもの社会化の発達には個人差があるため、一般的な良書がどの子どもの発達に対してもよい影響を及ぼすわけではないことに注意する必要がある。さらに、読書を通しての擬似体験は、現実の社会生活に必ずしも適用できるものではない場合もあることから、疑似体験を実体験に結びつけることも必要である。このような点に留意しながら、社会化の発達過程にある子どもに適切な本を手渡すことができれば、子どもはその本に興味を持って読み進め、次第に図書の選択能力を身につけることができるようになると期待されている。
 
 
 
  参考文献
・朝比奈大作(編) 『読書と豊かな人間性』 樹村房,2002.
・繁多進 「社会性の発達とは」 繁多進・青柳肇・田島信元・矢澤圭介(編)『社会性の発達心理学』 福村出版, 1991.
・阪本一郎 『現代の読書心理学』 金子書房,1971.
 
 
 
 
 



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