生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2020年1月19日
 
 

地域情報誌の作成を通した高校生の社会参画意識を醸成する教育プログラム(ちいきじょうほうしのさくせいをとおしたこうこうせいのしゃかいさんかくいしきをじょうせいするきょういくぷろぐらむ)

educational program to improve the high school students' awareness of social participation through the creation of regional information magazines
キーワード : 地域情報誌 、高校生の社会参画 、学校と地域との連携・協働 、地方創生 、地域振興
松浦賢一(まつうらけんいち)
 
 
 
  1.高校生の社会参画意識の醸成
(1)地域の魅力を高校生の視点から発信
 我が国では、急速に進む少子高齢化や人口減少に伴い、地方においては地域コミュニティの維持や住民組織の担い手不足など多くの問題に直面しており、地域内の人材育成として学校教育のみならず社会教育にも注目が高まっている。とりわけ、郷土への愛着を育む教育は、持続可能な地域社会を形成する上でも欠かせず、より重要度が高まっている。
 コミュニティ・スクールをはじめ、2015(平成27)年の中教審答申においては、地域全体で子供たちの成長を支え、地域を創生する「地域学校協働活動」の推進が示されるとともに、2017(平成29)年に公表された新学習指導要領では、「社会に開かれた教育課程」として、学校は家庭や地域社会との連携、協働を深めることと示された。
 これらの課題を改善するため、2016(平成28)年度と2017(平成29)年度に「ひやまWalkerプロジェクト」を実施した。地域の魅力を高校生の視点から発掘、発信することで、高校生の社会参画意識を醸成するのがねらいである。本研究では、社会教育からアプローチした実践事例について、その成果を明らかにした。
(2)ひやま Walker プロジェクト
 北海道教育委員会の出先機関である檜山教育局が、人口減少が著しい檜山地域の7町の教育委員会及び高校と連携しながら、高校生が地元の自然や産業、歴史などについて学び、その魅力を紹介する情報誌「ひやま Walker」を制作する実践を行った。
 「ひやま Walker プロジェクト」では、檜山地方の4つの高校の生徒が取材から編集まで手がけた地域情報誌「ひやま Walker」を2年続けて作成した。
 本プロジェクトのテーマは5点ある。1点目は、自分の町の豊かな自然や伝統・文化、産業等において、見逃していた「地域のお宝」を発見すること。2点目は、「中学生や高校生ならではの視点」を重視すること。3点目は、ふるさとの魅力を発見したら、それを檜山内外に発信すること。4点目は、そのための手段として、ご当地ウォーカーなるもの、つまり地域発信の情報誌を作成すること。5点目は、本プロジェクトを通して、地域の発展に貢献する次世代リーダーを育成することである。
 活動は、学校ごとに編成したグループで行い、7町を高校4校、高等養護学校1校で編成し、高校がない町については、その町に住む生徒が担当した。各校の取組は、総合学習などの授業やボランティア同好会、新聞局など様々である。また、本プロジェクトの取組2年目は、各町教育委員会の協力を得ながら、参加対象を中学生まで広げるとともに、より一層地域との連携を強化した。
 本プロジェクトの展開については、前期と後期に分けて活動し、前期が7月から11月、後期を12月から2月とした。
 前期では、第1回全体会を開催し、本プロジェクトの概要説明、地域づくりに取り組む専門家による講演、講座を行った。その後、各校で情報誌の作成に取り組んだ。
 後期では、第2回全体会を開催し、各校が作成した情報誌について成果発表や交流を行い、各発表後に、各町の町長や教育長が講評するとともに、振興局や観光協会等の一般参加者からの質疑応答の時間を設けた。
 また、後期の締めくくりとして、1月から2月に、完成した情報誌を参加した高校生自らが、公共施設等に設置して歩き、成果を普及した。
 
  (参考文献)
・文部科学省「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について(審議のまとめ)」、2015年。
・中央教育審議会「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について(答申)」、2015年。
 
 
 
  2.地域情報誌作成プログラム
(1)誌面の内容
 情報誌はA4判カラー8頁で、表紙以外の1頁ずつに檜山地方の7町の観光地やイベント、特産物、手書きの案内地図などを掲載した。見出しやレイアウトも生徒が担当し、手作り感があふれるようにした。
1年目の特徴は、ウォーキング又はサイクリングのマップを掲載した。観光客が気軽に見て回れるようなコンパクトな情報誌を目指し、自動車を運転しない高校生の視点を重視した。
 また、高校生の自慢の人気&隠れスポットを紹介した。学校の授業が終わってから、友人と一緒に行く店や美しい景色が見られる場所などについて、学校の仲間にも聞きながら選定した。
 2年目は、外国人観光客向けに日英の二重表記にした。北海道の豊かな自然や食、よさこいソーラン祭りや雪祭りなどの独自の文化が海外にも注目され、近年、外国人観光客が増えている。北海道新幹線の開業に伴い、道南地域にも多くの外国人観光客が期待できることから、人気スポットなどは、日本語と英語の二重表記にし、外国人が活用できる情報誌作りを目指した。
(2)各町のコンセプト
 1年目の各町のコンセプトは、せたな町は、檜山北高校のボランティア同好会が担当し、小中高連携の強みを生かした生徒目線の町づくりをPRした。今金町も、檜山北高校のボランティア同好会が担当し、地元の高等養護学校と連携して実施した。
 奥尻町は、町立の奥尻高校が「総合的な学習の時間」を活用して取り組み、島の課題調査を実施しながら作成した。
 乙部町は、江差高校の新聞局が担当し、自校の生徒にアンケートを実施し、地元の食べ物人気ランキングを掲載した。厚沢部町も江差高校が担当し、食とアウトドアを楽しむ町をPRした。江差町も江差高校が担当し、地元が誇る歴史ある伝統文化を取り上げた。
 上ノ国町は、上ノ国高校の3年生が「課題研究」の授業で取り組んだ。4つのグループがそれぞれ作成し、それぞれの良さを集めながら1ページに収めた。
 2年目の取組については、上ノ国町は、外国人観光客向けに英語で表記した。
 江差町は、江差高校の2年生の「日本史B」履修者が担当し、日本遺産に認定になったことを全面に取り上げた。厚沢部町は、豊かな自然と食物の関わりをPRした。乙部町は、地元の中学生にアンケートを実施した。
 奥尻町は、中学生にアンケートを実施するとともに、観光シーズンの夏だけでなく、春や秋の魅力を紹介した。
 今金町は、檜山北高校が、中学校と高等養護学校との3校で連携して作成した。せたな町は、町内にある3校の中学校と連携した。
(3)情報誌の活用
 2016(平成28)年度の情報誌(図1)は3,000部、2017(平成29)年度の情報誌(図2)は9,000部を印刷した。
 完成した情報誌の活用について、檜山振興局の地域振興を担当する課や各町の観光協会等と連携しながら、具体的に役立てるための方策として、町の観光協会や関係団体等のホームページに情報誌のデータを掲載するとともに、各町の役場や道の駅、フェリーターミナル等の公共施設に設置した。また、空港や開業したばかりの新幹線の駅などにも設置し、江差町による日本遺産申請(2017(平成29)年4月28日認定)時の文化庁等への説明資料としても活用された。
 2年目は、東京にも進出し、有楽町のどさんこプラザへの設置、蒲田で開催された「北海道ひやまフェア」でも配布するなど、檜山をPRする媒体として効果的に活用された。
 
 


添付資料:地域情報誌

 
 
 
  3.地域との連携、協働を推進する教育活動
(1)調査方法・内容
 プログラムの教育効果については、参加生徒を対象に、地域への愛着や情報活用力等に関する質問調査を行うとともに、担当教諭を対象に、参加生徒の取組の様子や本事業を通した教育効果等について自由記述によるアンケート調査を行った。1年目は32名の生徒と4名の教諭から、2年目は39名の生徒と5名の教諭からそれぞれ回答を得た。いずれも有効回答率は100%であった。
 また、成果発表会に参加した地域の関係者に教育的効果や社会的効果等に関する質問紙調査を実施した(表1)。1年目は20名から、2年目は29名からそれぞれ回答があった。
 さらに、作成した情報誌の地域振興への貢献について、関係機関への聞き取り調査を通して同プログラムの成果を検証した。
(2)調査の結果
 調査の結果からは、1年目、2年目ともに、8〜9割以上の生徒が、本プロジェクトの活動を通して、「地域の魅力を発見または再確認できるようになった」「自分が住んでいる地域を好きになった」「必要な情報を集め、それを活用できるようになった」「調べたりアイデアを出して物事を解決することができるようになった」ことがわかった(表2)。
 また、作成した情報誌の地域振興への貢献について、地域関係者を対象に行った調査によると、1年目は、「企画力や地域の魅力の発信」「地域の社会的活動を担う人材の育成」「地域経済の活性化」「地域のつながりの強化」の各項目において、95%以上の人から「十分」「やや十分」との回答があった(図3)。2年目については、質問項目のほぼ全ての項目において、95%以上の人から「十分」「やや十分」との回答があった(図4)。
 さらに、高校生が地域を紹介する主体的な取組として注目され、各新聞紙をはじめ、テレビやラジオなど複数のメディアで紹介されるとともに、各関係機関のホームページや地域情報誌へ掲載されるなどの反響を得た。
(3)考察
 本研究から明らかになった成果として次の4つが挙げられる。
 第1に、情報誌制作のための取材や編集等を高校生自身が行うことで、地域の魅力を発見又は再認識することにつながった。
 第2に、制作した情報誌を活用し地域の情報を広く発信することで、高校生が地域に貢献し、地域の将来を担う意欲の向上が図られた。
 第3に、各町の役場や観光協会等の地域関係者に対して実施した成果報告会を通して、高校生のプレゼン力やコミュニケーション力等が向上した。
 第4に、完成した情報誌が公共施設や物産展等多くの機会や場所で地域をPRする媒体として効果的に活用されるなど地域に広く浸透し、地域振興に貢献した。
 文部科学省の「地域との協働による高等学校改革の推進について(通知)」では、高等学校改革において地域との協働が求められる背景として、@新高等学校学習指導要領への対応(社会に開かれた教育課程を重視する)、A地域学校協働活動法制化への対応(高校生が地域課題を解決する取組を地域住民とともに企画・実施する)、B「Society 5.0」への対応(高等学校が地元市町村や企業等と連携しながら、高校生の地域課題の解決等を通じた探求的な学びの場を提供する)を挙げている。
 地域情報誌の作成を通した高校生の教育活動は、高校生の社会参画意識を醸成し、さらに、今後求められる地域との連携、協働を推進する活動として、高等学校改革及び生涯学習支援方策の検討に対して示唆するものと考える。
 
 


添付資料:情報誌の地域振興への貢献についてのアンケート結果

 
  (参考文献)
・文部科学省「地域との協働による高等学校改革の推進について(通知)」、2018年。
 
 
 
 
   



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