登録/更新年月日:2008(平成20)年2月5日 |
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オーストラリアのメンタリング運動は1990年代に本格的に興隆した。当時、グローバル化の進展とその地域経済への影響、地域コミュニティの崩壊等を背景に、青少年問題が顕在化していた。1990年代に深刻化する青少年問題への対応として開始された各地のメンタリング・プログラムの論拠は、他国と同様、オーストラリアの青少年が大人として独り立ちするのに必要な支援の提供であり、近年大幅に低下している周囲の大人からの日常的なインフォーマルな支援の補完であった。 オーストラリアでのメンタリング運動興隆の背景には、高自殺率に象徴される青少年問題の深刻化があった。1978年から1996年には青年男子の自殺率が倍増する一方、15〜16歳女子の自殺未遂による入院は男子の3倍となり、青少年自殺率は世界第5位と見積もられた。背景には家庭環境の変化、学校問題や雇用状況の変化、不法薬物使用による健康問題が介在していた。 家庭環境については、1980年代には13%であった一人親家庭は2000年には21%となり、約100万人の青少年が一人親家庭で育っていた。1997年には20〜24歳の子どもを持つ青年(15万人)のうち45,000人が一人親であり、その殆どが女性であった。約20%の子ども(80万人)が失業家庭で育ち、1996年の12〜24歳のホームレスの青少年は37,000人と見積もられた。青少年はこうした家庭状況の変化にあって、必要な支援を受けることなく大人になる方途を探っていた。 学校や就業に関する問題も顕在化していた。当該年齢人口の約70%が中等教育に在学しているが、1998年には14歳の3%が不登校となり、その率は10年前から倍増していた。雇用についても、20〜24歳のフルタイム就業率が1989年の66%から1999年の52%に低下し、パート就業率が11%から21%に急増した。90年代後半に生じた大幅な雇用拡大の殆どは25歳以上で生じ、青少年の多くは低水準スキルで低賃金、不安定なパート就労を余儀なくされていた。 健康問題についても、喫煙や飲酒に関連する自動車事故や薬物関連の死、自殺、暴力事件が青少年の死因のほぼ4分の3を占めていた。1997年には12〜16歳の青少年の20%以上に精神健康上の問題が見られ、大量飲酒や薬物依存の問題も深刻化していた(18〜24歳の男性の22%、女性の11%)。健康問題は死亡率が全体平均の2倍以上となっていた原住民系の青少年に特に顕著であった。 こうした状況にあって、80年代のWerner等によるレジーリエンス研究は、子どもの成長発展過程における大人との関係性が提供する保護の重要性を強調した。青少年の生活における支援的大人との関係性の重要性は日常生活においてよく知られ、両親以外の大人との親密な支援的関係性による絶大な影響力に関する文献も多数存在している。メンタリング・プログラムは自然なインフォーマルなメンタリングの一部局面を複製すべく、青少年に見知らぬ大人との支援的関係性を提供しようとするものであり、より具体的には、青少年の学びを援助し、教育や訓練、雇用に関する十分な情報と理解に基づいた決定ができるよう支援しようとするものであった。 br> |
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参考文献 ・渡辺かよ子「オーストラリアにおける青少年向けメンタリング運動」日本生涯教育学会論集27、2006年 |
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