登録/更新年月日:2013(平成25)年1月31日 |
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近年、パーソナル・ネットワーク研究や、社会関係資本(Social Capital)研究の中で社会的ネットワークの重要性が語られるようになってきた。社会的ネットワークに関する研究では、私たちが友人や知人と取り結んでいる人間関係に注目し、関係性の強さや広さ、密度、そして多様性が持つ役割を明らかにすることを試みている。 例えば、パーソナル・ネットワーク研究では、都市におけるネットワークの変容や、夫婦の間のネットワークの重なりや違い、仕事を通じて得られるネットワークの構造などについて研究を進めてきた。研究の方向は大きく2つに分かれる(森岡編, 2012: 14)。1つは、性別や年齢、家族構成、社会階層、居住地などによって、個々人の持つ社会的ネットワークがどのように異なるか、つまりネットワークを規定する要因を明らかにする研究である。もう1つは、ネットワークの大きさや、密度などの構造的特性が、知識や情報の伝達、社会的・心理的なサポートなど人々の行動や意識に、どのような影響を持つのかという、ネットワークの効果に関する研究である。 一方、社会関係資本の研究においては、人々の間の関係性の強さや広さ、多様性が、政治、経済、治安、健康、福祉、教育などに正の影響を及ぼすことが明らかにされてきた。この契機となったのは、パットナム(Putnam, R. D.)の研究である。パットナムの研究では、社会的ネットワークを通じて、信頼や互酬性の規範が育まれ、人々が協調的な行動に促されることが明らかにされた。この研究を受けて、国際的組織も社会関係資本に関する取り組みを始めている。例えば、世界銀行は1993(平成5)年に社会関係資本に関する議論を始め、1998(平成10)年にSocial Capital Initiativeという研究グループが、開発援助の指針としてこの概念を中心に据えた議論を提起するなど、貧困問題や社会開発の観点から社会関係資本の考え方を活用している。またOECDは、2001(平成13)年の報告書、「国の福利」において、社会関係資本の役割や形成、測定法について論じている(OECD, 2000=2001)。この視角は、OECDの教育研究革新センター(CERI)が進める「学習の社会的成果」プロジェクトに取り入れられ、教育・学習と健康・社会的関与について研究が進められてきた。日本でも地域政策や地方自治との関連で、社会関係資本の概念が注目されており、内閣府が、2002(平成14)年と2004(平成16)年に「つきあい」と「信頼」「互酬性の規範」を軸にした全国調査を実施している。 両者の研究を比較すると、パーソナル・ネットワーク研究では、誰がどのようなネットワークを持つか、そしてそのネットワークを通じていかなる情報やサポートが得られるか、という点に焦点が当てられている。これに対し、パットナムを中心とする社会関係資本の研究では、ネットワークの持つ社会的な効果に注目がなされており、社会政策・コミュニティ政策への示唆を有する。このような違いはあるものの、社会的ネットワークの構造や特性、効果に注目する一方で、その形成過程についての議論が不十分であるという点は共通している。 この社会的ネットワークの形成過程について、近年では教育や生涯学習が、社会関係資本の形成に与える影響という観点から研究が進められている。 br> |
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参考文献 ・森岡�・志編(2012)『パーソナル・ネットワーク論』放送大学教育振興会. ・OECD(2001)The Well-being of Nations: The Role of Human and Social Capital. 日本経済調査協議会訳(2002)『国の福利:人的資本及び社会的資本の役割』 |
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