生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2013(平成25)年1月31日
 
 

社会的ネットワークの形成と生涯学習 (しゃかいてきねっとわーくのけいせいとしょうがいがくしゅう)

formation of social networks through lifelong learning
キーワード : 社会的ネットワーク、生涯学習、社会関係資本、パーソナル・ネットワーク、中間集団
荻野亮吾(おぎのりょうご)
2.生涯学習を通じたネットワーク形成
  
 
 
 
   社会的ネットワークや社会関係資本の形成に生涯学習が与える影響を考えることは、社会の平等性に関わる問題である。なぜなら、社会には様々な要因が重なり、他者との関係を維持・形成できず、その結果として知識や情報、社会的な支援、様々な資源へのアクセスにおいて不利な立場に置かれている人々がおり、各人の有する社会関係資本は一定でないからである。だからこそ、社会関係資本の差の解消に生涯学習が果たす役割を、渋谷(2005)の言葉を借りるならば「生涯学習の社会的効果」を検討することに大きな意味がある。
 先行研究の多くは、学校教育の効果(学歴や教育年数)に注目してきたが、近年では、ロンドンの「学習の成果研究センター」を中心に、社会関係資本の形成に対する生涯学習の効果に関する研究も進められている。例えば、職業科目とアカデミック科目の受講経験について対比がなされたり、生涯学習による非認知的能力の涵養という効果が指摘されている。また、人的資本と社会関係資本の代替性や補完性についての議論も展開されている。
 これらの研究は、主にフォーマルな学習の効果に注目しているが、さらにインフォーマルなネットワークの中でなされる学習についての研究も徐々になされている。具体的には、社会における様々な中間集団、例えば、政治や宗教、職業に関する機能別の団体や、ボランティア団体やNPO、NGOといった市民活動団体、趣味や教養、楽しみのために組織されたサークル・グループなどにおいて育まれる社会的ネットワークに注目がなされている。この点に関して、坂口(2003: 30)は「一般に『公共性』が高いと認識されることの多いまちづくりや環境、福祉、人権、国際理解といった、いわゆる『現代的課題』に関する学習活動でなくても、なんらかの『団体』をとおして行われる趣味・教養や楽しみのための学習」が社会関係資本の水準を維持、向上させる可能性を指摘している。これらの中間集団に所属することで、社会とのつながりが増し、利他的行動の重要性についての意識が高まり、交際の範囲や接触の範囲が拡大し、他者とのつながりが深まる中で、互酬性の規範が培われていくことが期待されるからである。
 実際に、荻野(2011)は、社会調査データの二次分析を通じて、サークルやグループという趣味や教養、楽しみとの関連が深い集団への所属が、ネットワークの種類やサイズ、人脈の広さ、関係の密度というネットワークの多様な側面に正の影響を及ぼすことを明らかにしている。これらの集団は、活動の目的が焦点化していない分、親密な関係から改まった関係、密度が濃い関係から薄い関係まで、様々なネットワークの形成につながりやすいものと考えられる。ここから導かれるのは、明確に公共的な目的を掲げないサークル・グループであっても、活動を通じて様々な種類の社会的ネットワークを構築し社会関係資本の形成に寄与することで、公共性の基盤となり得るということである。以上のことから、サークル・グループの形成の基礎となる講座や学級の充実を図ることや、サークル・グループの活動の場を保障すること、様々なサークル・グル―プの情報を共有化し、アクセスを高めることによって、社会的ネットワークの充実を図っていくという政策的示唆を導き出すことができる。
 
 
 
  参考文献
・荻野亮吾(2011)「社会的ネットワークの形成に中間集団が果たす役割:JGSS-2003を用いた分析」『日本生涯教育学会年報』32, pp.125-141.
・坂口緑(2003)「中間集団が担う生涯学習の公共性」『日本生涯教育学会年報』24, pp.19-33,
・渋谷英章(2005)「生涯学習における社会的効果に関する研究」『日本生涯教育学会年報』26, pp.39-46.
 
 
 
 
  



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