生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2015(平成27)年1月1日
 
 

先進諸国にみる少子高齢化と生涯学習振興 (せんしんしょこくにみるしょうしこうれいかとしょうがいがくしゅうしんこう)

キーワード : 合計特殊出生率、少子高齢化、移民、就労支援、生きがい・健康づくり
岩崎久美子(いわさきくみこ)
3.人口減少社会に向かっての生涯学習への投資
  
 
 
 
  【生涯学習の成果の実証】
 少子高齢化といった社会的課題に対し、生涯学習振興で対応する場合、財源の競争的獲得が求められ、教育投資の根拠として、生涯学習の社会的効果が実証されることが望まれる。この場合、学習の社会的効果としては、たとえば、次のようなことが挙げられる。
 第一に、学習の成果として定量できる多くは健康に関わるものである。学習することにより事故、暴力・虐待、病気などの減少、並びに公衆衛生全体の改善がなされ、より具体的には、健康がもたらす生産性向上、病気や早死になどにより失われる労働日数の減少、個人の公的医療費の削減などがもたらされる。
 第二に、学習を通じた社会的関わりによる効果がある。悲嘆、孤立、社会的疎外は、病気、孤独、そして死のリスクを高め 、反対に、社会的に関わりを持つことは、個人的充足感、安全、健康、社会的凝集性、民主制や経済的・人的資本蓄積などに効果があるとされる。特に高齢者においては、学習活動に参加し、地域社会に最適な形で参加しうることが、自立し充足した日々や精神的・肉体的に健康な生活を送ることにつながり、公的医療費等の社会的コストの抑制につながる。
 第三に、生涯学習の持つ人的投資の側面も無視できない。今後の社会では、個人の要請としては生活水準の維持、そして社会的要請としては国際競争力や生産性を維持するため、高齢者を含む成人全体に対する継続的な能力開発は必須になり、学校教育を超えた教育・訓練への需要がより増大することが予見されている。これらのことから、あらゆる年齢、立場、環境にある成人を対象とした能力開発は、労働力の確保の観点からも必要不可欠の様相を帯びるようになってきている。
【高齢化対応と学習】
 人口動態と生涯学習に係る欧米の政策文書は、押しなべて活力ある高齢化について関心を寄せ、高齢化対応の国家戦略と行動計画の中に学習を位置づけている。そこでは、高齢者の学習ニーズを受けた具体的な施策を検討し、高齢者の学習の動機づけや、キャリアや学習ガイダンスなどをコーディネートする制度の確立や、高齢者の教育・訓練に予算措置を行うことなどが挙げられている 。今後、人口動態上、青少年人口の割合が低くなることから、学校教育の相対的な意味は減少し、生涯学習はより重要性を持つことが予見される。わが国にあっても、生涯学習の具体的成果や費用対効果を明らかにし、生涯学習施策がより大きな社会的展望のもと、社会政策の一環として立案・推進されることが期待されるのである。
 
 
 
  参考文献
・OECD教育研究革新センター編(教育テスト研究センター(CRET)監訳)『学習の社会的成果―健康、市民・社会関係資本』明石書店, 2008.
・WHO,The Social Determinants of Health:The Solid Facts, Second Edition, 2003.
 
 
 
 
  



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