生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年7月27日
 
 

生涯大学システム (しょうがいだいがくしすてむ)

consolidated lifelong learning system
キーワード : 学習ニーズの多様化、広域ネットワーク、県民カレッジ、生涯学習推進センター
伊藤康志(いとうやすし)
3.生涯大学システムに残された課題
  
 
 
 
  1)生涯大学システムは、当然だが、これまでの生涯学習支援の考え方を前提に構想されている。学習者の多様化、高度化・専門化、個別化に如何に対応するかが第一であったとき、関係機関の連携・協力による学習サービスの総合化は大きな成果をあげた。一方で、その前提自体がシステムの発展を阻む要因ともなった。構想から10年が立ち、この間の社会変化を受け、生涯学習支援の考え方自体が転換期を迎えており、システムも現在のかたちのままでよいのか、再構築の必要性について検討するときにきている。
2)平成19(2007)年の中央教育審議会生涯学習分科会中間報告「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」では、「今後の生涯学習振興方策の基本的考え方」の第2に「『いきがい・教養』だけでなく『職業的知識・技術』を習得する学習を[強化]する」([]囲みは筆者)と指摘した。また平成20年公表の最終答申では、「生涯にわたり職業能力や就業能力(エンプロイアビリティ)を持ち」「それぞれの持つ資質や能力を伸長」するため「必要に応じて学び続けることができる環境づくりが急務」とされた。
3)これらの指摘にどう「生涯大学システム」つまりは県民カレッジ等が対応していくかが今後の大きな課題となる。一つの方向性としては、上記のような職業能力伸長のための学習サービスの充実に取組、従来のシステムとの統合・連携等を模索することがある。青森と同様、北海道(「道民カレッジ」を展開)が、就職や社会参加に結びつく講座の提供や必要な情報提供・学習相談の仕組みづくりを目指す文部科学省の「再チャレンジのための学習支援システム事業」(現在、「実践型学習支援システム構築事業」)を受託した。その背景には「『就労支援』という新たな視点からの生涯学習の取組」「学習成果の活用や個人のキャリアに結びつく学習への転換」(北海道再チャレンジ学習支援協議会)がある。従来の「いきがい・教養」中心で、かつ学習機会提供を中心とした枠組みからの転換が意識されている。
4)残念ながら北海道や青森のような問題意識が全国的に共有されるには至っていない。既に労働行政の領域で多様な取組が展開されている中、あらたに生涯学習行政が担う役割がどこまであるのか、そこが正直見えていないといった逡巡があると思われる。
5)もう一つの課題は学校教育法改正による「履修証明制度」をめぐる大学との連携である。従来、大学における評価は学位か、科目等履修制度による科目毎の単位認定であって、大学公開講座などは所謂、修了証を交付することにとどまっていた(その意味では公民館での修了証と同じ、奨励的評価)。「履修証明」は明確な法根拠を持つことによって、通用性のある能力証明として期待される。大学の科目、公開講座、公民館等の講座、民間の講座等を体系的につなげることで、奨励中心とは違う展開を図る上で強力なツールになるだろう。
6)生涯大学システムに、この「履修証明」が織り込まれることによって、新しい評価の「基礎」が出来ることになる。各大学の「履修証明」が一つのブランドになり、個人の学習歴・活動歴の記録である「生涯学習パスポート」に記載されることで、周縁の学習歴等にも通用性・信用性の面で好影響を与えることが期待される。
 
 
 
  参考文献
・中央教育審議会生涯学習分科会中間報告「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」平成19(2007)年
・中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について〜知の循環型社会の構築を目指して〜」平成20(2008)年
・伊藤康志『「再チャレンジ支援」と生涯学習政策』日本生涯教育学会年報第28号、平成19(2007)年

 
 
 
 
  



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