生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

男女共同参画社会と生涯学習 (だんじょきょうどうさんかくしゃかいとしょうがいがくしゅう)

gender-equal society and lifelong learning
キーワード : 男女共同参画社会基本法、女性センター、エンパワーメント、家庭教育支援
葛原生子(くずはらいくこ)
3.男女共同参画を促進する家庭教育支援
  
 
 
 
   少子高齢化社会の進展にともない、家庭教育支援が生涯学習推進の大きな柱の一つとしてこれまで以上にクローズアップされてきている。家庭教育支援は、親自身が親としての力をつけること、すなわち「親のエンパワーメント」につながるよう「親たちの学び」を支援することが重要である。しかし、その親とは誰のことなのか。多くの家庭教育支援事業の対象者が母親となっている実態がある。また、その背景にある、支援者である事業担当者のジェンダー・バイアスも指摘されている。子育てや家庭教育は母親が担えばよいという考え方が、女性に、母親として子育てに対する物理的、心理的過重負担を強いると同時に社会的活動を制限し、そのことが子育て不安や子育てを楽しめない状況をつくりだしていることは多くのところで言及されている。
 親のエンパワーメントというとき、それが母親であれば、子どもに対する責任や仕事を自分だけで抱えこむことなく、孤立しないで社会との関わりを持ち、自分自身の人生を切り開き自立することを支援することも重要な一側面である。子育て中は家庭での子育てだけに生きがいを感じることを求められ、「女性の自立」といえば子育て後と考えられた時代はすでに終わっている。母親のエンパワーメントとその学びの支援というとき、それは親として子育ての力をつけていくことと、女性として社会的力をつけていくことの両方が含まれる支援である必要がある。
 他方、父親としての男性はどうであろうか。家庭での役割を積極的に果たしていこうとする男性は少しずつ増えているとはいえ、まだ少数派である。国際比較でも、日本の男性の子育てへの参加率は極端に低く、育児参加の内容も遊び相手程度である。母親中心の子育てサークルや子育てネットワークがクローズアップされてきている一方で、その父親版である「おやじの会」も各地にひろがってきている。この傾向に問題があるわけではないが、子どもそっちのけで活動する父親がいたり、活動にのめり込みすぎると、結果的に母親の育児負担が増えてしまうなどといった問題点を指摘する声もある。これでは、男女共同参画どころか、それに反して子育てでも「男は外、女は内」ということになりかねない。伊藤公男が言うように、“三歳までは母の手で”ではなく、“三歳までは父の手で”といった、家庭内の手間のかかるシャドーワークもきちんと担える能力を身に付け、母親の社会的活動をサポートできることも、父親としての男性のエンパワーメントには含まれる。
 男女共同参画の視座から家庭教育支援をみると、ここで指摘したような父親と母親ではそのエンパワーメントの方向性やそのための学びの支援内容には異なる部分も多い。子育て家族の多様性にも配慮し、必要としている人に必要としているものが届く、戦略的な家庭教育支援の事業展開が不可欠である。

 
 
 
  参考文献
・ 葛原生子「新しい時代の家庭教育支援者とその育成に向けて」『日本生涯教育学会年報』第25号、2004年
・ 中野洋恵「男女共同参画の視点に立った家庭教育推進方策に関する調査研究」『国立女性教育会館研究紀要』第4号、2000年
・ 伊藤公男『男性学入門』作品者、1996年
 
 
 
 
  



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