生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年11月25日
 
 

職業能力開発と生涯学習振興施策 (しょくぎょうのうりょくかいはつとしょうがいがくしゅうしんこうしさく)

キーワード : 職業能力開発、エンプロイヤビリティ、自己啓発、キャリア教育、リカレント教育
今野雅裕(こんのまさひろ)
1.職業能力開発の課題と対応
  
 
 
 
  ア.企業の雇用・人材養成システムの変化
 これまで、大企業を中心とした日本の企業では、日本型人材採用方式(新卒・一括・大量採用)により、出身大学を拠りどころに、潜在的な資質・能力の高いと見られる人材を採用し、採用後は、OJTやOff-JTを組み合わせた多様な企業内訓練と企業内での異動による幅広い職務経験によって、社員の能力開発を行うのが、一般的であった。ところが、事業の高付加価値化、新分野への積極的参入、創造的技術の重視などが必要とされるなど、産業・経済を取り巻く環境が急激かつ大幅に変化する中で、人材に対しては顕在的な能力重視の傾向がはっきりしてきた。このことに伴い、採用にあっては、中途採用・通年採用など採用時期が流動化し、年齢や学歴・学校歴よりも職務経験や実績がより評価されるようになっている。また、採用後の人事においても、年俸制や成果主義などが導入され、さらには、転職・出向、派遣や期限付き雇用など就業や勤務の形態そのものも流動化を強めてきている。こうしたことから、求められる職業能力についても、所属企業で役に立つ知識・技術・態度の形成から、どの職場でも有用性のある「エンプロイヤビリティ」の形成が強調されるようになっている。職業能力の開発についても、企業は、自ら主導しての研修実施から、勤労者個人による自発的で個別的な自己啓発を支援する方向へと変化しつつある。
イ.対応方策と課題
 自己啓発を支援する企業・事業所は80%に上るが、そのうち、「受講料等を援助するもの」は企業全体の56%、「就業時間での配慮・教育訓練の情報提供などをするもの」は42%、「有給教育訓練休暇制度」を持つものは23%に過ぎず、本格的な支援の展開が必要とされる。国は、「自己啓発助成給付金制度」(有給教育訓練休暇の付与や受講費用援助の企業に費用の一部を国が援助)、「教育訓練給付制度」(勤労者が教育訓練施設に支払った経費の8割を国が支給)など助成制度を運営するほか、各種の職業能力資格試験制度、技能審査制度を行っている。ホワイトカラーに対する一般的な職種別の能力・資格評価「ビジネス・キャリア制度」も導入している。
 一方で、フリーターやニートと言われる人たちの存在が大きな問題となっている。フリーターは、種々の理由から、定職を持たず、アルバイト就労により生計を賄っている人々で、平成16(2004)年に213万人と、この十数年の間に2倍以上に増加している。自由な働き方を求める若者の指向の表れでもあるが、事務のアウトソーシング化、派遣職員・パート職員の積極的導入など人件費の高騰を抑えようとする企業側の採用戦略の結果でもある。ニートは、就学、就労、職業訓練のいずれをも行っていない者のことで、平成16年には64万人と、この十年で1.5倍に増加している。職業人としての能力、経験の向上・蓄積は望むべくもなく、個人にとっても産業界、社会全体にとっても問題となる。また、新卒者に関しても、就職3年後の状況で、中卒者では就職者のうち7割が、高卒では5割が、大卒では3割が離職するなど、就業の意識・態度という面で問題が指摘されている。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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