生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年11月25日
 
 

文化芸術振興の動向と課題 (ぶんかげいじゅつしんこうのどうこうとかだい)

キーワード : 行政の文化化、メセナ活動、文化芸術振興基本法、外部経済性、文化の享受権
今野雅裕(こんのまさひろ)
1.文化行政の推移
  
 
 
 
  ア.地方文化行政の進展
 戦後、国はいち早く「文化国家」「文化立国」を掲げ、文化政策推進の姿勢を示したが、当時の社会・経済情勢のもとで、現実に行い得たのは、芸術祭の開催、国立博物館の再開・整備、文化財保護法の制定などに止まっていた。
 文化行政の最初の画期は、日本社会が高度経済成長を達成した後にやってきた。急速な開発により破壊されつつある自然環境を取り戻し、精神的にもゆとりのある文化的生活を送りたいとの人々の強い願いを背景に、1970年代に「新しい文化行政」が提唱された。「地方の時代」・「文化の時代」をスローガンに、文化庁と教育委員会による、プロによる芸術文化の普及や文化財保護を中心とする行政から、知事部局における、住民の日常生活に即した文化的環境の充実を行う行政こそ、新しい時代のあるべき文化行政だとされた。都道府県や政令指定都市など大都市において、首長部局に文化振興担当部局が設置され、自治体全体として総合的な文化振興が進められた。
 「1%システム」(公共施設建設などで全体予算の1%を美的デザインに充てる)、「文化アセスメント」(公共施設建設に当たり周囲との調和の観点から計画をチェック)、「文化基金・財団」の創設、文化的な街並み・景観・生活環境をつくる事業などが精力的に展開された。さらに、「行政の文化化」が定式化され、すべての分野行政を文化的な視点から見直し、施策の中に文化性(人間性・地域性・創造性・美観性)を投入していくこと、つまり、文化の概念で全行政を統合化することが提言された。いくつかの自治体では、文化振興条例を制定し、文化推進計画が構想された。
イ.国の文化行政の推進
 こうした地方の文化振興の動きを受けて、国でも1970年代後半に、大平総理の政策研究会が発足し、今後の総合的な文化振興の方向を明らかにした。文化庁でも研究会や懇談会などを組織し、種々の施策を打ち出してはいたものの、飛躍的な展開を見るには至らなかった。
 国の文化行政の画期となったのは、バブル経済進展下の1980年代後半から90年代初頭である。地方交付税による「ふるさと創生」事業は地方の文化ホールの急増に拍車をかけ、建設省、農水省などのまちづくり関係事業も地域の文化施設・環境整備に貢献した。文化庁では、「文化芸術振興基金」(政府出資500億円・民間出損金100億円)を設置し、新国立劇場の建設に着工するなど、文化芸術振興に本格的な施策展開を始めた。
 この時期、民間企業においても、メセナ活動への機運が高まり、社団法人「メセナ協議会」が設立され、芸術振興の民間の拠点が形成された。個別企業でも民間の芸術活動等に資金や各種の便宜を提供し、職員に対しボランティア活動への組織的支援を行うようになっていった。経団連では社会貢献部を新設するとともに、「1%クラブ」(個人・企業の可処分所得等の1%分を社会貢献活動に充てる)活動を始めるなどした。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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