登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日 |
|||||||||||||
|
|||||||||||||
|
|||||||||||||
このような女性のエンパワーメントの考え方において、一つの重大な論点がある。それは、既存の社会システムの中でより公正な地位を獲得しようとするのか、そうではなくよりジェンダーに公正な社会に向けた構造的変容に力点を置くのかということである。Belanger(1999)は、前者が既存のシステム内で個々人にとってのベストを達成することを意味する「自力本願(self-reliant)」モデルであるのに対し、後者は集団で協働した活動や行動をし、差別的慣習やジェンダーによる不平等を解消することをめざした男性中心社会の変容に関わるものであると指摘している。前者が「自力本願」モデルであれば、後者は「社会変革」モデルと呼ぶことができるであろう。 この2つのモデルは、女性のエンパワーメントに関するパラダイムの違いとか、見方(perspective)の違いといった対立項として捉えられ、両者の対話の必要性が指摘されている。しかし、この2つのモデルを二者択一的に個別に存在するものとしてではなく、女性のエンパワーメント過程における状態の違いとして捉えることもできるのではないだろうか。 Albertyn et al.(2001)は、エンパワーメントに必要な3つのパワー・レベル、すなわち「個人的パワー(personal power)」、「人間関係のパワー(interpersonal power)」、及び「政治的パワー(political power)」を確認し、労働者が訓練プログラムへの参加を通して、これら様々なレベルのパワーを身につけていく過程を実証的に明らかにしている。特に、プログラム参加前には「個人的パワー」獲得に強く動機づけられていた人々が、プログラム修了直後とその3月後の事後調査では、より外的な「人間関係のパワー」、さらには「政治的パワー」に成果の焦点があてられるようになっていたことは注目に値する。 女性のエンパワーメントも、「個人的パワー」レベル、すなわち「自力本願」モデルに焦点づけられることが多い。しかし、そこから出発したとしても、そのレベルに留まることなく、「政治的パワー」レベル、すなわち「社会変革」モデルに到達するプロセスとして、すなわち、女性のエンパワーメント過程を「個人的パワー」から、「人間関係のパワー」、さらに「社会変革のパワー」レベルへの3段階の質的変化のプロセスとして捉え、そのプロセス全体を視野に入れることが重要である。 ここでいう「個人的パワー」とは、女性個々人がジェンダー問題に気づき意識を変え、個人的に力をつけることである。「人間関係のパワー」とは、それら個々の女性がお互いに持てる力をシェアし合うことのできる相互依存的なつながり、すなわちネットワークをつくり、女性が集団として力をつけることである。「社会変革のパワー」とは、その女性たちの力が周囲にインパクトを与えジェンダー関係における男女の相対的なパワー関係を変える力となり、ジェンダーに敏感な社会、環境の実現に結びつくことである。 br> |
|||||||||||||
|
|||||||||||||
参考文献 ・Albertyn, R.M., Kapp, C.A., and Groenewald, C.J., Patterns of Empowerment in Individuals through the Course of a Life-skills Program in South Africa Studies in the Education of Adults , Vol.33, No.2 pp.180-197, 2001 ・Belanger, P., Women’s Education : the Contending Discourses and Possibilities for Change UNESCO Institute for Education, 1999 |
|||||||||||||
『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。 |
|||||||||||||
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved. |