生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2016(平成28)年2月29日
 
 

孤立する学習者の支援 (孤立する学習者の支援)

support of isolated learners
キーワード : 学習者の孤立、集落の消滅、孤立の時代、学習者ネットワーク、学習機会へのアクセス
坂本登(さかもとのぼる)
1.集落の消滅と孤立の背景
  
 
 
 
  (1) 集落の消滅
 平成19(2007)年3月,総務省と国土交通省は合同調査の結果をもとに,平成11(1999)年から同18(2006)年までに191の集落が消滅し,かつ,今後10年以内に国内の62,273集落のうちの423集落が,いずれ2,220の集落が,消滅する可能性があると公表した。平成23(2011)年3月には,総務省地域力創造グループ過疎対策室が,当時,全国に801の過疎地域(総務省が過疎地域自立促進特別措置法により指定した市町村)に存立している64,954集落のうち,今後10年以内に454集落(0.7%)が,いずれ2,342(3.6%)の集落が,ともに消滅する可能性があると予測した。さらに平成26(2014)年5月,「日本創成会議人口減少問題検討分科会」は,出産率の高い若年女性人口(20〜39歳)が半分以下に減る可能性がある自治体を「消滅可能都市」と仮定し,それが平成52(2040)年までに全市区町村の49.8%(896市区町村)になる,との予測を発表した。
 消滅していく過程にある集落では,集落を構成する住民が孤立する。住民の日常生活に支障が生じ,当然,学習機会へのアプローチが阻害される。この意味で,集落の消滅と孤立は,子ども会,青年団,婦人会など地縁を拠りどころとする団体によって発展してきた我が国の社会教育の成立基盤の消失につながりかねない。
(2) 孤立の時代
 わが国の世帯総数に占める「単独世帯(一人暮らし)」の割合は,昭和55(1980)年の19.8%から平成22(2010)年の32.4%へと増加した。世帯主が65歳以上の「高齢世帯」に限れば,単独世帯は昭和55(1980)年の20.4%から平成22(2010)年の30.7%へと増加し,65歳以上の高齢者のうち「一人暮らし」をしているのは,男性のほぼ10人に1人,女性の約5人に1人に相当する。加えて,価値観や生き方の多様化に伴い,生涯独身や離婚など「一人暮らし」を選択するケースも増えている。
 また,いずれかの親がひとりで未成年の子どもを育てる「ひとり親と子の世帯」(8.7%)が漸増傾向にあり,かつ,子育て期にある「30〜34歳」「35〜39歳」の女性の就業率も上昇している。いまや就業と子育てを両立させることが常態化し,子育て期にある家庭において,親と子が日常同じ時間を共有することが困難になりつつあり,兄弟姉妹の少ない現代っ子はひとりで過ごす時間を多くしている。一方,職に就く親の多くは,子育てに必要な情報や学びの機会にアクセスできず,子育ての悩みについて相談したり話し合う仲間に恵まれず,育児難民化する可能性を大きくしている。
 さらに,自立する時期にある世代の「引きこもり」が一向に減少しない。しかも最近では「引きこもりおじさん」や「引きこもり主婦」,「引きこもり老人」なども出現した。このほか,学習支援の観点からは,200万人を超える在留外国人,何らかの介護・介添え・補助によって学習が可能になると思われる約510万人の障害を有する人たちが,地域社会で孤立しているケースがあることも憂慮される。
 孤立する人のすべてが学習や社会貢献への意欲を喪失しているわけではないだろう。ただ人が集まる集合的,集団的な学習の場や機会に気後れしたり,時間や距離などが障壁となっているのかもしれない。また,孤立を志向しているとすれば,それは「個」の時代を生きる先導性を持ち合わせているとも考えられる。しかし,孤立する人が増加することは,集団・集合型による相互学習・相互教育を特徴とする社会教育への参入を抑止したり,さらには社会教育の存立意義を軽視する引き金となり加速させることにもなりかねない。
 
 
 
  参考文献
・国土交通省「国土形成計画策定のための集落の状況に関する調査 報告書」平成19年3月。http://www.mlit.go.jp/common/000029254.pdf
・総務省地域力創造グループ過疎対策室「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査報告書」平成23年3月。http://www.soumu.go.jp/main_content/000113146.pdf
 
 
 
 
  



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