生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2018(平成30)年2月21日
 
 

若手社員育成の課題と方法 (わかてしゃいんいくせいのかだいとほうほう)

issue and method of training young employee
キーワード : 新入社員育成、都市青年意識調査、多元的自己、個人化社会、個人化と社会化の一体的支援
西村美東士(にしむらみとし)
3.個人化社会における若手社員育成の課題
  
 
 
 
  【個人化への理解の必要性】
 これまでの若手社員育成においては、明快な視点がなかったため、先行調査においても若者への戸惑いや困惑が多く、対応策も抽象的なレベルにとどまっていた。しかし、他者との情緒的な関係を重視する反面、組織に対して勤勉だが、自己を強く主張しないという多数派新入社員の個人化・社会化の未達状況は、青少年研究会の平成24(2012)年の若者調査結果と重なるものとして理解される。このことから、「組織の中で個性を発揮する人材」に育てるためには、若手社員の個人化と社会化に関する各タイプの達成状況及び特徴に適した育成が求められることは明らかである。
 個人化は、現在のところ、二つの側面から「敵視」されている。一つは、若者の個人化により社会性が阻害されるという側面であり、もう一つは、社会全体が個人化することにより、すべてが個人の自己責任の問題に帰結され、結局、個人は不安にさいなまれるという側面である。しかし、個人化は、現代社会の必然の産物である。個人化を積極的に取り上げ、個人化と社会化とを統合することによって道は開ける。
 個人化社会において、若手社員個人としては、「社会(職場・家庭・地域)の一員として充実して生きていくための能力獲得過程としての社会化」とともに、「個人として充実して生きていくための能力獲得過程としての個人化」の両者を達成することが求められる。この統合的発展によって、個人の充実と社会の形成に貢献することができる。これが、若手社員の職業生活を含めた生涯にわたる自立と社会参加を実現する育成のあり方といえよう。
 組織への帰属とパフォーマンスの達成によって個が充実するということを考えれば、彼らの育成のためには、労働現場における教育機能に期待できるところが大きいといえる。
【個人化と社会化の一体的支援による育成】
 社会化を個人化と対比させて、4類型が想定できる。横軸に社会化、縦軸に個人化の水準を設定し、T社会化・個人化タイプ、U個人化・非社会化タイプ、V非個人化・非社会化タイプ、W社会化・非個人化タイプとして表せる。たとえば、「青少年が重大事件を引き起こしたり、新たな青少年問題が浮上したりするたびに、社会の側は、彼らに望ましい社会化の達成を求めようとしてきた」ということについてみると、その対応は、Wの社会化・非個人化タイプにつながるものと解釈できる。しかし、若手社員の望ましい社会化と個人化がともに達成されるような人間像とは、「T社会化・個人化タイプ」に他ならない。第一象限に位置する「自立して社会に参画する個人」こそ、青少年の社会化の最終到達像として描くことができる。
 そして、ワークショップ型授業におけるアクションリサーチの結果からは、自己内対話の促進による個人の充実が、他者の自己内対話結果との交流によってさらに充実することが明らかになっている。流動と多様の中にあっても、このことによって、新しい指導の方法論が見出せる。そのためには、個人化と社会化の双方の多様性を認め、構造的把握によって連続体として理解することと、流動性を認め、ラダーや循環を動態的に把握することが重要である。
 「T社会化・個人化タイプ」という理想像は、このアプローチによって現実化を進めることができるものと考えられる。今日、若者の現状の中に、社会化と個人化の相克がたびたびかいま見られる。このような事態において、利己主義でもなく、孤立でもなく、かといって、集団への埋没でもない「自立して社会に参画する個人」としての自己形成に向けた「目標」や「価値」を、社員育成を含めた社会のさまざまな若者支援が明確に掲げることの意義は大きい。若手社員育成のめざす姿とは、社会参画する若者の育成に他ならない。
 添付資料:自立して社会に参画する個人図解
 
 
 
  参考文献
・西村美東士ホームページhttp://mito3.jp
・西村美東士「生涯学習と市民参加」、望月雅和編著・西村美東士・金茂昭・安部芳絵・吉田直哉・秋山展子・森脇健介著『子育てとケアの原理』、北樹出版、2018年3月
・Zygmunt Bauman, The Individualized Society, (London: Polity Press, 2001)
 
 
 
 
  



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