生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2023年2月1日
 
 

青少年教育施設の家族参加型体験事業における参加者の特性(せいしょうねんきょういくしせつのかぞくさんかがたたいけんじぎょうにおけるさんかしゃのとくせい)

characteristics of participants in family participation-based experience programs at youth education facilities
キーワード : 青少年教育施設 、家族参加型体験事業 、体験活動 、保護者 、特性
庄子 佳吾(しょうじ けいご)
 
 
 
  1.子供を取り巻く環境と体験活動の教育的意義
 昨今、子供を取り巻く環境が大きく変化しており、三間(時間・空間・仲間)の喪失により体験活動の場や機会が減少していると指摘されて久しい。内閣府の子供・若者白書(2018)では、「学校以外の公的機関や民間団体が行う自然体験活動への参加率は減少傾向にある」ことが明らかになっており、特に小学校4〜6年生は2006年度から2014年度にかけて10ポイント以上低下しているなどといった結果から、体験活動の減少に対して警鐘を鳴らしている。
 このような背景から、中央教育審議会(2013)は、「今後の青少年の体験活動の推進について」の中で、青少年の「生きる力」を育むために「体験活動の機会を意図的・計画的に創出することが求められている」と述べており、その機会の拡充は現代社会に求められている教育課題であるといえる。同様に、第3期教育振興基本計画(2018)でも「子供たちが達成感や成功体験を得たり、課題に立ち向かう姿勢を身に付けたりすることができるよう、様々な体験活動の充実を図る」等に明示され、今後一層の充実が政策目標として掲げられている。
 国立青少年教育振興機構(以下、「機構」という。)の調査結果(2018;2021)によれば、自然体験や生活体験、文化芸術体験が豊富な子供、お手伝いを多く行っている子供は、自己肯定感が高く、自立的行動習慣や探究力が身についていることや家族の愛情・絆を基盤に、遊びに熱中するなど様々な体験をした人ほど、社会を生き抜く資質・能力が高いことが明らかになっている。これは、家族とともに体験活動をすることの教育的意義を示している結果とも推察できる。
 
  (参考文献)
・文部省編『21世紀を展望した我が国の教育の在り方について・中央教育審議会第1次答申』ぎょうせい、1996年。
・中央教育審議会「次代を担う自立した青少年の育成に向けて(答申)」2007年1月。
・中央教育審議会「今後の青少年の体験活動の推進について(答申)」2013年1月。
・内閣府『平成30年版 子供・若者白書』日経印刷、2018年。
・文部科学省「第3期教育振興基本計画」https://www.mext.go.jp/content/1406127_002.pdf、2023年1月24日参照。
・独立行政法人国立青少年教育振興機構『子供の頃の体験がはぐくむ力とその成果に関する調査研究報告書』2018年。
・独立行政法人国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する意識調査(令和元年度調査)報告書』2021年。
 
 
 
  2.青少年教育施設における家族参加型体験事業
 我が国における青少年の体験活動を専門的に支援する青少年教育施設においては、これらの調査結果が示される以前よりファミリーキャンプなどの家族参加型体験事業(以下、「家族事業」という。)を展開してきた歴史がある。しかしながら、このような教育実践は数多くあるものの、研究蓄積は多くないのが現状である。家族事業に着目した研究として、福満ら(2001)は、青少年教育施設が実施したファミリーキャンプ参加者の参加行動に焦点を当てた調査を行い、保護者の志向が強く影響すること、施設や指導者への安心感という主体的要因、その保護者のニーズを満たす機能的要因が参加を促進させる可能性があると述べている。また、庄子(2017;2018)が行った事例研究では、家族事業では子供と大人、両者による「協働学習モデル」が成立している可能性、「人(参加者の視点)」から「場(施設)」を捉えることで、家族にとっての魅力的な生活の場になりうる可能性について言及しているものの、両者ともに対象の限定性を課題として挙げている。また、張本(2001)は子供が自然体験活動に参加するに当たり、保護者が強い影響力を持つこと、保護者の自然体験に対する意識を明らかにすることは野外教育や自然体験活動を運営する上で意義があると示唆していることから、これらを明らかにすることは、家庭における体験活動ひいては青少年期の体験活動の充実に寄与するものと考えられる。
 
  (参考文献)
・福満博隆・山本清洋「野外教育施設主催のファミリーキャンプにおける参加行動に関する研究」『鹿児島大学教育学部研究紀要』52巻、2001年、pp.141-153。
・庄子佳吾「青少年教育施設における家庭教育支援の可能性に関する研究−国立花山青少年自然の家における実践を例に−」『日本野外教育学会第20回記念大会プログラム・研究発表抄録集』2017、pp.30-31。
・庄子佳吾「サードプレイスとしての青少年教育施設の役割に関する研究−国立花山青少年自然の家における事例をもとに−」『日本野外教育学会第21回大会プログラム・研究発表抄録集』2018、pp.38-39。
・張本文昭「自然体験に対する保護者の意識」『日本野外教育学会第4回大会プログラム・研究発表抄録集』2001、pp.22-23。
 
 
 
  3.保護者の体験活動の実態及び子供の体験活動に対する意識
 家族事業の参加者の体験活動の実態や体験活動に対する意識を把握するため、国立青少年教育施設において2021年度に実施された家族事業(46事業中、回答があった42事業)の参加者(参加家族499組より研究同意及び不備のない回答を得られた参加者(保護者)452名を対象に、質問紙調査を行った。
 調査内容は、対象者の基本属性の他、1. 体験活動の実態を把握するため、「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が実施した「『早寝早起き朝ごはん』の効果に関する調査研究」(2021:以下、「早寝調査」という。)より、小学生の頃の体験に関する選択項目、2. 子供の体験活動、しつけに対する意識を把握するため、機構が実施した「青少年の体験活動等に関する意識調査(令和元年度調査)」(2021:以下、「機構調査」という。)より、子供の体験活動に対する意識、早寝調査より子供へのしつけに関する選択項目等から構成した。
(1)基本属性
 本研究の対象の種別、年代、居住地域、家族構成は「添付資料」図1〜4に示したとおりである。対象は母親(63.1%)が最も多く、次いで父親(35.6%)であった。対象の年代は40代(55.1%)が最も多く、次いで30代(36.3%)であった。家族構成としては二世代世帯(75.8%)が最も多く、次いで三世代世帯(22.4%)であった。
(2)体験活動の実態
 小学生の頃の体験(自然体験、動植物とのかかわり、友達との遊び、地域活動、家族行事、家事手伝い)の実態と早寝調査との比較結果は「添付資料」図5〜10、表1〜2に示したとおりである。対象の体験活動の実態の結果を見ると、全項目において早寝調査よりも「何度もある」と回答した割合が高くなっていた。これより家族事業の参加者は子供の頃に比較的、豊富な体験をしている可能性が示唆された。
(3)子供の体験活動、しつけに対する意識
 子供の体験活動に対する意識と機構調査との比較結果は「添付資料」図11、表3に示したとおりである。機構調査と比較して、高い問題意識を持っている傾向が読み取れた。特に、「学校の授業や行事では、子どもたちが体験活動をできる機会が十分にある」では「思わない」(「思わない」+「あまり思わない」))と回答した割合に32.6%の差が見られたことから、体験活動の機会を意図的に創出する必要性を強く感じていると考えられた。
 また、子供へのしつけと早寝調査との比較結果は「添付資料」図12、表4に示したとおりである。「自分のことは自分ですること」の項目を除き、早寝調査よりも「熱心にしてきた」と回答した割合が高くなっていたことから子供へのしつけも比較的、多く行っていることが示唆された。
 以上より、家族事業に参加する保護者は子供の頃に豊富な体験をしていること、子供の体験活動に対する問題意識があり、しつけをよく行っていることが示唆された。これらは親が子どもと遊ぶことの重要性を言及した河合(1990)の論説など、家族での体験活動の教育的意義を支持する結果であるといえる。よって、家族事業には現代の家庭教育に対する包括的アプローチとしての発展性があると考えられる。今後は、これらの特性に当てはまらない家族に対して体験活動の機会を創出していく必要があると考える。そのためには、教育的意義も重要ではあるが、子供や家族の興味・関心が高い活動や青少年教育施設ならではの体験、家族で非日常の時間を共有することの利点等を伝えていく工夫が求められるだろう。
 
 


添付資料:保護者の体験活動の実態及び子供の体験活動に対する意識(小項目3)

 
  (参考文献)
・「早寝早起き朝ごはん」全国協議会『「早寝早起き朝ごはん」の効果に関する調査研究報告書』2021年。
・独立行政法人国立青少年教育振興機構「青少年の体験活動等に関する意識調査(令和元年度調査)報告書」2021年。
・河合雅雄『子どもと自然』岩波書店、1990年。
 
 
 
 
   



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