生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2018年12月17日
 
 

雪の性質を生かした自然体験活動指導者養成プログラム(ゆきのせいしつをいかしたしぜんたいけんかつどうしどうしゃようせいぷろぐらむ)

teacher-training program for nature-based experiential activity utilizing snow
キーワード : 冬の自然体験活動 、雪の性質 、自然体験活動指導者養成 、青少年教育施設 、自然体験活動の指導に求められる資質能力
松浦賢一(まつうらけんいち)
 
 
 
  1.冬の自然体験活動指導者養成
(1)冬の自然体験活動の指導
 冬期間、野外での活動が制限される北海道において、子供たちの体力や運動能力が低迷する中 、冬の特性を生かした体験活動の指導に必要なリスクマネジメントを学び、安心、安全かつ魅力ある自然体験活動を実施できる指導者を育成していくことが求められている。
 積雪環境を生かした冬の自然体験活動指導者養成プログラムの開発に関する先行研究として、青木・粥川(2014)は、大学のカリキュラムを生かした自然体験活動指導者養成プログラムの開発に取り組み、雪上活動実習を取り入れた実践について検証している。しかしながら、自然体験活動指導者として実践している人を対象にした指導者養成プログラムについて、雪の性質を生かした自然体験活動に焦点をあてた実証的な研究は見受けることができなかった。
 そこで、国立大雪青少年交流の家において、自然体験活動指導者が実践的交流を図りながら、青少年が安全で安心な体験活動を行えるよう、知識や技術のブラッシュアップを図ることを目的に、雪の性質を生かした冬の自然体験活動指導者養成プログラムの開発を行った。とりわけ、養成プログラムを受講した参加者が小学生を対象に企画・運営した体験活動プログラムについて、自然体験活動の指導に求められる資質能力の観点から検証した。
 仮想プログラムの企画演習から脱却して本物の場面を設定する先行研究として、松浦(2014)は、自然体験活動指導者養成事業において、子供たちに実際に指導するという本物の社会的実践に当事者として参画するという状況論的アプローチをプログラムに取り入れることによって、参加者の学びが促進されることを明らかにした。
(2)自然体験活動の指導に求められる資質能力
 プログラムの教育効果については、参加者に質問紙調査を実施し、「自然体験活動の指導に求められる資質能力」の要素について検証を行った。質問紙は、平成15年度兵庫教育大学プロジェクト研究が作成した「自然体験活動の指導に求められる学校教員の資質能力尺度」(教員用)を用いた。
 この尺度は、子供の自然体験活動の指導で学校教員に求められる資質能力として「共通理解と集団指導力」(4項目)、「安全管理・安全指導の能力・知識」(3項目)、「自然体験活動の知識」(3項目)、「企画・指導技術」(2項目)、「状況予測力と対人間関係能力」(3項目)、「関心・意欲」(3項目)、「元気・体力」(2項目)の7つの因子によって構成されている(表2)。学校教員を対象にした尺度ではあるものの、自然学校の受入施設指導者に対しても同じ項目で質問紙調査を実施し、質問項目の妥当性を確認して作成されたものである。
 実施したプログラムは、自然体験活動の指導に携わる学校教員や青少年教育施設職員、自然ガイド、教員を目指す大学生等を対象にしており、さらに質問項目が、実施したプログラムの内容と一致するものが多いため、本尺度については、参加者の能力を測定する上で適切であると判断した。
 
 


添付資料:自然体験活動の指導に求められる資質能力(小項目1)

 
  (参考文献)
・ 文部科学省「平成26年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果報告書」、2014年。
・ 青木康太朗、粥川道子「大学のカリキュラムを生かした自然体験活動指導者養成プログラムの開発に関する研究」『北翔大学北方圏生涯スポーツ研究センター年報6』、2015年、pp.73-78。
・ 松浦賢一「状況論的アプローチによる生きる力の実質化を図る体験活動指導者養成−青少年教育施設における自然体験活動指導者養成事業の実践から−」『創価大学社会教育主事課程年報 No.17』、2014年、pp.35-46。
・ 長澤憲保編『平成15年度兵庫教育大学プロジェクト研究 子どもの自然体験活動の指導に求められる学校教員の資質能力形成に関する研究 研究報告書(第二年次)』、2004年、pp.50-51。
・ 上西一郎編『平成15年度兵庫教育大学プロジェクト研究 子どもの自然体験活動の指導に求められる学校教員の資質能力形成に関する研究 研究報告書(第一年次)』、2003年、p38-49。
 
 
 
  2.冬の自然体験活動指導者養成プログラム
 2014(平成26)年1月11日から13日までの2泊3日で実施された、国立大雪青少年交流の家主催の「自然体験指導者ブラッシュアップ研修会」を事例に、雪の性質を生かした冬の自然体験活動指導者養成プログラムの成果を検証した。
(1)参加実績
 参加者は、自然体験活動の指導に携わる幼稚園や学校教員、青少年教育施設職員、自然ガイド、教員を目指す大学生等を対象とした。全日程参加したのは16名(男12名、女4名)である。
 運営は、国立大雪青少年交流の家の職員3名が行い、一部のプログラムにおいては、運営協力者として、北海道雪崩研究会のメンバー2名の協力を得た。
(2)プログラムデザイン
 雪の特性を生かした体験活動プログラムやリスクマネジメントなどについて理解を深めるとともに、安心、安全そして魅力ある自然体験活動を実施する指導者を養成することができるようにプログラムを企画した。また、参加者が実践的交流を通したブラッシュアップを図れるように、全てのプログラムに自然体験活動の様々なエッセンスを入れるとともに、参加者が実際のプログラムを企画し、それを子供たちに対して実施するという、仮想プログラムの企画演習から脱却して本物の場面を設定するように工夫した。
 プログラムの1日目は、気象台の気象情報官が、屋外での安全な活動に不可欠な冬の天気と天気図の見方について講義したあと、参加者が各々のプログラムを持ち寄り、コミュニケーションゲームについてのブラッシュアップを図った。また、施設職員が講師となり、「学校教育における体験活動の意義」をテーマに、国や北海道の教育施策、社会的背景についてふれ、体験活動の推進に向けた具体策について講義した。
 2日目は、北海道雪崩研究会が講師となり、冬山における事例をもとに、雪の中での活動における事故防止の観点について講義した。午後は雪の観察や埋雪体験、スノーマウント方式雪洞作りなどの演習を行ったあと、施設職員が講師となり、「自然体験活動プログラムのブラッシュアップ」をテーマに、グループごとに実際に実施する自然体験活動プログラムの企画と立案を行った。
 3日目は、美瑛町公民館事業「冬 ふれあいの里」に参加した小学校4年生から6年生18名を対象に、企画・立案した「スノードームづくり」「宝探し」「基地づくり」のプログラムをグループごとに実施し、企画・立案したプログラムの検証を行った。
 プログラムを運営・指導するにあたって、活動場所を事前に踏査するとともに運営者と綿密な打合せを行うなど、安全確認やグループの編成、スタッフの指導体制や指導上の留意点等について確認した。特に、屋外の活動場所やルートにおいて、積雪状況や危険箇所のチェックを行うとともに、無線や携帯電話等の連絡用装備の電波状況についても確認した。
 プログラムを構成する上で留意した点は、参加者が天気や雪崩という冬の自然体験活動に必要な知識を習得でき、参加者同士が交流しながら技術を高め合う内容にしたことである。また、学んだことを活用して自ら考え、判断し、行動し、成果を導き出すことができるように、参加者が、小学生を対象にした実際の事業のプログラムを企画して指導する演習を取り入れた。
 プログラムの実施にあたっては、3つの小グループに分けることで互いに交流する機会を増やすように工夫した。グループについては、年齢や職種、経験年数等のバランスを考慮して編成した。
 
 


添付資料:冬の自然体験活動指導者養成プログラム(小項目2)

 
 
 
  3.「自然体験活動の指導に求められる資質能力」の要素の検証
(1)調査方法・内容
 実施プログラムにおける「自然体験活動の指導に求められる資質能力」の要素を検証するため、参加者16名を対象に、事業開始時と終了時に質問紙調査を行った。16名から回答を得て、有効回答率100%であった。
 分析対象者ごとに、同能力の得点として20項目の合計値を5件法で算出し、対応のあるt検定を用いて、7つの構成因子の各調査時期における平均値、標準偏差について算出した。
 また、参加した小学生を対象に「自然体験についてのアンケート」を実施した。平成15年度兵庫教育大学プロジェクト研究が作成した「自然体験で培われた能力尺度」と「楽しさ体験尺度」を用いた。20項目の合計値を5件法で算出し、構成因子ごとに平均値を算出した。
(2)調査の結果
 ポスト調査での「自然体験活動の指導に求められる資質能力」に有意差が認められた(p<.001)。また、「自然体験活動の知識」「企画・指導技術」(p<.001)のほか、「共通理解と集団指導力」「状況予測力と対人関係能力」(p<.01)、「安全管理・安全指導の能力・知識」「元気・体力」(p<.05)の各構成因子においても有意差が認められた。
 参加した小学生を対象にした「自然体験についてのアンケート」では、「学習の仕方」を除く「協力」「自然理解・快活」「課題の達成」「親和・達成」「学習の基本的態度」「自己に対する理解」の項目について平均値が上がり、各グループが企画・立案したプログラムのねらいが達成されたことがわかった。
(3)考察
 本研究の結果から、実施したプログラムにおいて、参加者の「自然体験活動の指導に求められる資質能力」が向上するという可能性が示唆された。特に、「企画・指導技術」と「共通理解と集団指導力」の項目が向上したのは、小学生を対象にした実際のプログラムを企画・指導する演習を取り入れた結果によるものと推察する。
 また、雪の性質を生かした自然体験活動の指導に必要な冬の天気や雪崩のリスク等を学ぶことにより、「自然体験活動の知識」「状況予測力と対人関係能力」「安全管理・安全指導の能力・知識」の項目が向上した。
また、「状況予測力と対人関係能力」が向上したのは、冬の天気図の見方に関する講義において、状況を予測する方法を学ぶとともに、小グループに分けることで互いに交流する機会を増やす工夫をしたことが要因と考えられ、「安全管理・安全指導の能力・知識」については、雪崩のリスクを学ぶ講義や演習及び子供たちに実際に指導する場面を取り入れることにより、参加者の能力が高まったと考えられる。
 なお、「関心・意欲」の項目については、有意差は見られなかった。もともとこの項目の平均値の数値が高いことから天井効果と推察する。
 本研究から明らかになった教育効果として、第1に、参加者が実践的交流を図りながら自らの指導技術をブラッシュアップし、小学生を対象にした自然体験活動事業とコラボレーションしたプログラムデザインによって、実践に生かせる内容にすることができ、それを実証的に示したことである。
第2に、リスクマネジメントの視点から積雪地域における冬の気候・天気図についての知識や雪の性質を学ぶことによって、積雪の多い森の中での活動を安全に実施できる力を身につけることができ、さらに、積雪の多い地域だからこそ可能となる雪の性質を生かした自然体験活動プログラムを企画・指導できる指導者養成プログラムを構築したことである。
 
 


添付資料:自然体験についてのアンケート項目(小項目3)

 
  (参考文献)
・ 長澤憲保編『平成15年度兵庫教育大学プロジェクト研究 子どもの自然体験活動の指導に求められる学校教員の資質能力形成に関する研究 研究報告書(第二年次)』、2004年、pp.52-53。
 
 
 
 
   



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