登録/更新年月日:2018年12月17日
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1.冬の自然体験活動プログラム (1)自然体験型環境学習 持続可能な社会の構築は、我が国のみならず世界共通の課題であり、ESDが世界の教育の潮流となっている。日本では古来、豊かな自然の中、多様な地域性を持ち、海・山・森などの恩恵を受けてきた。同時に、災害に対する知恵なども培ってきた。しかしながら、近年、環境や自然の素晴らしさ、大切さ、怖さなどを意識・体験する機会が少なくなってきている。 また、地球温暖化や生物多様性の減少など、様々な地球環境問題も深刻さを増している。これらの環境問題を解決していくためには、環境の素晴らしさや大切さ等を認識し、そして行動できる人間を育成していくことが必要である。 こうした中、青少年教育施設では、小中学生の生きる力を引き出し、さまざまな課題や困難に立ち向かっていく力を養うための自然体験型環境学習を実施している。「生きる力」とは、変化の激しいこれからの社会を生きる子供たちに身に付けさせたい「確かな学力」、「豊かな人間性」、「健康と体力」の3つの要素からなる力のことである。 北海道立足寄少年自然の家(現北海道立体験活動支援施設ネイパル足寄)では、小学生を対象にした森林での調査や体験活動を通して、北海道十勝圏の森林環境への理解を深め、自分たちの住む身近な自然や環境問題に対する興味・関心を高めるとともに、他者とコミュニケーションを図りながら、仲間と助け合う豊かな人間性を育むことを目的として、冬の自然体験活動プログラムの開発を行った。とりわけ、雪の特性を生かした体験活動プログラムに注目した。 (2)九州大学北海道演習林 本プログラムを実施するに当たり、九州大学と連携・協力を図り、同大学のスタッフの指導のもと、活動プログラムの一部を同大学北海道演習林で行った。 同大学北海道演習林は、北海道十勝平野の北部、足寄郡足寄町に所在する。面積は3,713ha、標高およそ100m〜450mの丘陵地に、ミズナラやカエデ、シナノキなどの落葉広葉樹林とカラマツを中心とした人工林が広がっており、森林の生態や利用方法について研究をしたり、森林科学を学ぶ学生が実習をする場として管理されている。 気候は、年平均気温6.9℃、厳寒期には-30℃以下を記録するが、夏季には最高気温で35℃以上に達することもある。気温の年格差が大きく、降水量が少ないという内陸的な特性を示す。降雪は11月中旬から始まり、最大積雪量は連年平均で42cmである。 本地域の自然植生は、ミズナラ、カシワ、ヤチダモ、ハルニレ、イタヤカエデ、シナノキ、ハリギリなどで構成される落葉広葉樹で、我が国の冷温帯林を代表するブナが分布せず、さらに北海道地方に広く分布するトドマツ、エゾマツなどの常緑針葉樹が出現しないという特徴をもった森林である。人工林のほとんどは、冬季に落葉するカラマツ林で、トドマツやアカエゾマツの他、ドイツトウヒ、ヨーロッパアカマツ、ストローブゴヨウなどの外国産樹木による造林も見本林などとして試験的に行われている。本演全域は野生鳥獣の保護・観察のため、鳥獣保護区となっている。 本演習林における研究および教育は、学術参考保護林、自然林保全区、森林動態研究区および各種施業試験区を中心に行われている。さらに演習林内には多数の固定試験地が設定されており、ここでは長期間にわたる調査とデータの集積を必要とする研究が行われている。また、森林生態圏管理学を専門とする教員3名、技術職員4名が常駐している。 |
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(参考文献) ・UNESCO、Education for sustainable development http://en.unesco.org/themes/education-sustainable-development、2016年12月1日参照 ・ 環境省「今後の環境教育・普及啓発の在り方を考える検討チーム<報告書>」2011年7月 http://www.niye.go.jp/youth/book/files/items/79/File/kongokankyo.pdf、2016年12月1日参照 ・ 「国連持続可能な開発のための教育の10年」関係省庁連絡会議「我が国における『国連持続可能な開発のための教育の10年』実施計画」、2011年6月3日改訂 http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokuren/、2016年12月1日参照 ・ 文部科学省 生きる力http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286794/www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/pamphlet/index.htm、2012年10月31日参照 ・ 松浦賢一「青少年社会教育施設におけるESD推進のための環境教育プログラムの開発?大学と連携した自然体験型環境学習の実践から?」『創価大学社会教育主事課程年報 No.15』、2012年、pp.6-12 |
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2.青少年教育施設を活用した冬の体験活動 2013(平成25)年2月2日から3日までの1泊2日で実施された、北海道立足寄少年自然の家主催の小学生を対象にした「とかち森の学校V」を事例に、雪の特性を生かした冬の自然体験活動プログラムの成果を検証した。 (1)参加実績 北海道十勝・釧路管内に住む小学生を参加対象とした。参加したのは、小学生17名(男4名、女13名)で、学年の内訳は、3年生4名、4年生5名、5年生8名である。 運営は、北海道立足寄少年自然の家の職員4名が行い、運営協力者として、大学生ボランティア5名のほか、演習林のガイドとして九州大学北海道演習林の職員6名の協力を得た。 (2)プログラムデザイン 北海道立足寄少年自然の家と九州大学北海道演習林を活動場所の中心とし、冬の森林環境の観察や調査活動を通して、身近な自然環境に対する興味・関心を高めるとともに、仲間と協力し合う豊かな人間性を育むことができるようにプログラムを企画した。 また、雪の性質を理解するとともに、雪の特性を活かした冬の体験活動を通して、たくましく生きるための「生きる力」を育むことができるように工夫した。 プログラムの初日は、ネイチャーゲーム等の仲間づくりの後、同大学北海道演習林において、同大学の職員の指導のもと、スノートレッキングや調査活動を行った。樹木の冬芽を観察したり、雪上に残されたアニマルトラッキングから冬の森の動物の生態を学習した。また、雪の温度の測定や埋雪体験等を行い、雪の表面と雪の中、更に地面付近での温度の違いを科学的な調査と自らの体感温度で確認し、冬の森の中で生きる動植物と自然環境との関係性について学んだ。夜には、雪の結晶を顕微鏡で観察した後、雪の結晶を形取った様々な種類の切り絵作品を制作した。 2日目は、スレッドリレー を楽しんだ後、スノークッキングを行った。ペットボトルを使ったアイスクリーム作りや氷の代わりに雪を使ったホイップクリーム作り、温かいメイプルシロップを冷たい雪の上にたらして作るメイプルタフィーなど、初日に学習した雪の温度の特性を活かしながら、自ら焼いたホットケーキを仲間と一緒に楽しくほおばった。 プログラムを運営・指導するにあたって、活動場所を事前に踏査するとともに運営者と綿密な打合せを行うなど、安全確認やグループの編成、スタッフの指導体制や指導上の留意点等について確認した。 特に、森の中におけるスノートレッキングでは、防寒対策を講じるとともに、事前の実地踏査を含め綿密な活動計画を策定し、けがや事故の未然防止に努めた。 スノークッキングでは、火や調理器具を安全に扱うように指導した上、各班のボランティアスタッフを通して、けがの未然防止に努めるとともに、衛生面の対策を行った。 プログラムを構成する上で留意した点は、参加者が、知識の習得にとどまらず、それを活用して自ら考え、判断し、行動し、成果を導き出すことのできるように、系統的に調査や体験活動を取り入れた。 さらに、「五感で感じる」原体験としての自然体験、生活文化の智慧を活用した環境に配慮した暮らしを促す質の高い環境教育・学習となるように、学習環境や学習方法を工夫した。 プログラムの実施にあたっては、グループを4つに分け、小グループに分けることで互いに交流する機会を増やすように工夫した。なお、グループについては、学校、学年、性別、他の教育事業への参加経験等のバランスを考慮して編成した。 |
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(参考文献) ・ 九州大学北海道演習林 http://www.forest.kyushu-u.ac.jp/hokkaido/index.php、2016年12月1日参照 ・ 北海道教育委員会 冬のニュースポーツ『キックゴルフ』『スレッドリレー』http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/sgg/sled-instruction.pdf、2016年12月1日参照 |
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3.「生きる力」の要素の検証 (1)調査方法・内容 実施した冬の自然体験活動プログラムにおける「生きる力」の要素を検証するため、参加した小学生17名を対象に、事業開始時と終了時に質問紙調査を行った。質問紙として独立行政法人国立青少年教育振興機構が開発したIKR評定用紙(簡易版)を用いた。17名全員から回答を得て、有効回答率100%であった。 分析対象者ごとに、「生きる力」の得点として28項目の合計値を6件法で算出し、「心理的社会的能力」(14項目)、「徳育的能力」(8項目)、「身体的能力」(6項目)の3つの上位能力の得点に加えて、28項目それぞれの各調査時期における平均値、標準偏差についても算出した。平均値の比較には、対応のあるt検定を用いた。 (2)「生きる力」の変容 事業後に行ったポスト調査での「生きる力」の平均値が上昇しており、有意差が認められた(p<.001)。構成因子では、全ての項目において平均値に有意差があった。 (3)考察 本研究の結果から、実施した冬の自然体験活動プログラムにおいて、参加者の「生きる力」及び3つの上位能力が高まるという可能性が示唆された。 特に、心理的社会的能力の各項目が向上したのは、プログラム全体において、仲間と協力し合う豊かな人間性を育むことを重視した結果によるものと推察する。特に雪深い森の中や雪を活用したスノークッキングなど新鮮で非日常的な環境や活動内容をプログラムに取り入れたことが、新たな発見を生み、「人と自然」「人と社会」「人と人」の関係性の理解につながったものと考える。 また、グループによる協同学習を重視したことにより、グループ内での一人一人の責任と役割が明確になった。その結果、「まじめ勤勉」や「思いやり」が向上し、参加者にとって効果的なプログラムになったと考察する。 このことから、子供たちに「生きる力」の構成要素である「確かな学力」、「豊かな人間性」、「健康と体力」を身に付けさせる上で教育効果があるといえよう。 また、本研究から明らかになった教育効果として次の2つが挙げられる。 第1に、郷土の自然環境と直接的かつ積極的な関わりと体験を通じた活動により、書物からは決して得られない貴重な体験を提供することができた。特に、雪に関する環境学習を行ったあとに、雪の特性を生かした体験活動を実施することにより、参加者の学びが深まったことである。プログラムを企画する際、子供の学びを深めるために、実体験を通して気づいたことや学習したことを次の活動に活用していけるように一つ一つの活動を関連づけることがポイントである。また、雪の特性を生かした環境学習をする際、気候や季節、地域によって雪の性質が異なるので注意が必要である。 第2に、演習林を所有する大学の研究機関と連携することにより、冬の森の中での活動を安全に実施することができた上、冬芽観察や雪の温度調査、埋雪体験等大学が持つ冬の環境調査に関する専門的な知識や調査のノウハウを生かしながら冬の体験活動プログラムを構築することができた。プログラムを企画する際、コンセプトや参加者に身に付けさせたい力を明確にした上で、大学等の連携先と綿密な打ち合わせをすることがポイントである。また、野外における体験活動は机上の学習よりリスクが多いので、事前にコースや活動場所を踏査したり、専門家等からアドバイスをもらうことも必要である。 |
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(参考文献) ・ 独立行政法人国立青少年教育振興機構 体験活動による「生きる力」の変容が見える!「生きる力の測定・分析ツール」、2012年 |
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