生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年11月2日
 
 

高齢者の人材活用事業 (こうれいしゃのじんざいかつようじぎょう)

キーワード : 人材活用、社会参加、プロダクティブ・エイジング、エイジフリー社会
伊藤真木子(いとうまきこ)
1.語義・文脈
  
 
 
 
   「高齢者の人材活用」は、人口高齢化に伴う社会経済的問題への懸念が高まる1970年代に、高齢者向け適職開発、労働能力開発・訓練など「中高年齢者雇用促進対策」という文脈で用いられて一般化した表現である。労働生産性という観点から高齢者を人材ととらえ、社会保障制度の維持・安定に寄与しうるかたちでの「活用」が考えられていたといえる。高齢期は、心身機能の減退や経済的貧困の問題などに直面する時期ととらえられ、高齢者の対処的ニーズに注目した学習支援が考えられていたともいえよう。
 その後、健康寿命の伸長に伴う高齢期の生活の質への関心が高まる1980年代には、趣味・文化・学習・スポーツ活動やボランティア活動の推進など、新たな人間関係や活動の創出・開始につながる場や情報を整備しようとする「生きがい対策」や「余暇対策」という文脈において用いられることとなる。文化創造性という観点から高齢者を人材ととらえ、地域社会の活性や世代間の連帯に寄与しうるかたちでの「活用」が考えられるようになるのである。高齢期は、職業や家族に由縁する役割や人間関係の縮小、アイデンティティの揺らぎといった問題に直面する時期ととらえられ、高齢者の表出的、貢献的、影響的ニーズに注目した学習支援が考えられるようになったともいえよう。とりわけ団塊世代・男性・雇用労働者を想定した議論においては、いかに主観的な幸福感を高めるかを関心事とする「サクセスフル・エイジング」の観点より、いかに社会貢献度を高め評価するかを関心事とする「プロダクティブ・エイジング」の観点が強調されてきた。学習活動についても、過程における自己形成(個人的効用)というより、成果を活かしての社会参加(社会的活用)が意義付けられるようになっていくのである。
 なお、1983年にまとめられた経済企画庁国民生活局編『高齢者の新しい社会参加活動を求めて―高齢者の能力活用に関する実態調査』においては、活用・活動のパターンを、1)拠点型(民間や自治体が設置する作業所等での生産活動)、2)既存組織活用型(老人クラブほか高齢者団体における活動)、3)人材派遣型(自治体が設置するシルバー人材センターや能力銀行などの取り組み)、と類型化したが、社会教育事業としての「高齢者人材活用事業」は、この能力銀行に該当するものである。
 そして、多様化し個別化し変容する高齢者像についての指摘が相次ぐ1990年代には、就業・雇用・社会保障制度において年齢基準があることを前提する立論そのものが、また、職業生活や家庭生活以外のところでの役割や人間関係こそを第一義的に価値づける立論そのものが、見直されつつもある。年齢に関わらず個々人の望むライフスタイルをそれぞれに実現できる「エイジフリー社会」が目指されるなかで、「高齢者人材活用」という考え方・取り組みの成立基盤そのものが問い直されているのだといえよう。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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