生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年11月2日
 
 

高齢者の人材活用事業 (こうれいしゃのじんざいかつようじぎょう)

キーワード : 人材活用、社会参加、プロダクティブ・エイジング、エイジフリー社会
伊藤真木子(いとうまきこ)
2.学習支援事業としての展開
  
 
 
 
   社会教育事業として広範に展開される直接の契機は、昭和(53)1978年度から文部省の国庫補助事業として開始された都道府県事業「高齢者人材活用事業」であるが、補助金交付要綱「生涯教育地域活動促進費の運用について」では次のように説明されていた。
“この事業は、高齢者の生きがいを高めるため、高齢者が永年にわたって貯えた知識や技能を社会教育の指導面に活用しようとするものである。具体的には1)すぐれた知識や技能を有する高齢者(おおむね六〇才以上)を募り、2)これら希望者に社会教育の指導者として必要な知識技術を研修させ、3)指導者として登録するとともに、4)求めに応じて講座、講習会等の講師、助言者、子ども会等各種団体の指導者、社会教育施設等における学習相談の担当者など社会教育活動における指導者として随時派遣するものであること。”
 その後昭和59(1984)年度には「高齢者の生きがい促進方策」のなかに市町村事業として位置づけられ、平成6(1994)年度には「高齢者社会参加促進総合事業」のなかに「高齢者指導者養成事業」(都道府県事業)、「高齢者学習活動促進事業」(市町村事業)と位置づけられて、「人材活用」の表記もみられなくなる。このかんの問題や変遷は次のように指摘できよう。
1)人材の募集・派遣については、関係機関・団体などからの推薦・要望を期待するものであったが、高齢者側では「指導者」と称されることへの抵抗感が、学習者側では「指導者」の力量への不満等が、教育委員会の管轄圏と高齢者・学習者の行動圏とのギャップの問題等が、事業全体として認知度の低さが指摘されていた。その後、高齢者ボランティア養成講座など学習機会提供事業との接続関係をもたせ、また、長寿学園など広域事業との接続関係をもたせるなどの制度的工夫がなされることとなる。
2)指導の場面としては、社会教育施設や社会教育関係団体における活動のみならず、学校教育活動の一環として期待されることが増えており、単発的・自発的取り組みというよりは、継続的・制度的取り組みといえる側面が増えている。
3)指導の内容としては、特定領域に関する知識や技能の伝達ということではなく、職業経験や子育て経験あるいは老い死にゆくという経験のような、総体としての人生経験に基づく知恵が象徴的に伝わるという観点から意義付けられるようになってきた。
4)期待される高齢者像に適う人物に適合する制度としてのみならず、全ての高齢者の参加を期待する制度となり、社会教育における指導者層の充実という意味合いより、高齢者の学習支援という意味合いが強くなってきた。
5)登録・派遣制度の充実に向けた工夫よりも、民間団体の活動の活性化ないし民間団体との連絡関係の構築に向けた工夫が進み、いずれにしろ、追跡調査等による組織的な評価が求められる段階にある。
6)社会教育・生涯学習支援における行政上の課題としてボランティアの支援・推進が掲げられ、また学習機会の整備提供から学習成果の活用促進といったことに焦点が移りつつあるなかで、「高齢者の」という対象の限定は無いかたちで展開されている。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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