生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

ペダゴジイとアンドラゴジイ (ぺだごじいとあんどらごじい)

Pedagogy and Andragogy
キーワード : 教育学、子どもの教育、大人の教育、ノールズ、自己主導的学習
池田秀男(いけだひでお)
1.学問としての成長過程
  
 
 
 
   教育に関する思想や理論は人間の歴史と共に永い歴史があるが、「教育学(pedagogy)」と呼ばれる教育を対象とする学問が体系化されたのは、19世紀初期のことで、ドイツのヘルバルト(Herbart,J.F.)の著書『一般教育学(Allgemeine Paedagogik)』(l806)である。その研究対象は子どもの教育についてであった。これに対して大人の教育理論を学問として最初に体系化したのは、アメリカのリンデマン(Lindeman,E.)であり、彼の著書『成人教育の意味(The Meaning of Adult Education)』(1926)だとされている。したがってそれまでの120年間は、教育学としては子ども対象のものだけで、大人を研究対象としたものは存在しなかった。しかし20世紀に入って以後今日に至るまで、教育学の研究対象としては、子どもの教育が中心であり、大人を対象とする教育の研究はマージナルな学問的位置付けしかあたえられてこなかった。そのことは教育学研究に関する論文や著書あるいは大学の教育関係学部の構成を見ると一目瞭然である。
 このような教育学研究の歴史的発展過程に一時期を画す変化をもたらしたのは、個人のライフスパン(平均寿命)よりも社会文化変動のタイムスパン(知識、技術、職業、政治、経済システムなどの半減期)が大幅に短縮され、かつその変化の速度も加速化してきたことである。例えば、大学一年の時に学んだことを卒業の時点では新しく学び直さなければならなくなったとか、あるいは職業的知識の重要な部分が数年もすると陳腐化してしまい、内容によっては専門的な仕事の遂行と学習を平行させなければならないような時代になったとか言われるような状況の出現である。
 このようにかつての静態的な社会から、生涯にわたって人びとが学習を継続発展することを必要とする学習社会への移行につれて、子どもを中心とする教育の限界や見直しと大人の教育の必要性や重要性への対応が教育研究上の重要な課題となってきた。この過程で子どもを対象とする教育学とパラレルに大人を対象とする教育学、すなわち従来型の教育学と対比される「成人教育学」は登場してきた。そしてこの新しい歴史的発展段階において、2つの教育学研究のモデルを念頭においた新しい研究枠組のなかで、前者を「ペダゴジイ」、後者を「アンドラゴジイ」という呼称と議論は成長した。この新しい枠組と理論の体系化は、アメリカのノールズ(Knowles,M.)の『成人教育の現代的実践―アンドラゴジイ対ペダゴジイ―(The Modern Practice of Adult Education:Andragogy versus Pedagogy)』(1970)において結実した。本書のサブタイトルは、10年後の改訂版ではFrom Pedagogy to Andragogy とあらためられている。
 
 
 
  参考文献
・マルカム・ノールズ(堀薫夫・三輪建二監訳)『成人教育の現代的実践―ペダゴジーからアンドラゴジーへ―』鳳書房、2002.
・マルカム・ノールズ(渡辺洋子監訳)『学習者と教育者のための自己主導型学習ガイド―ともに創る学習のすすめ―』明石書房、2005.
・Conner,M.L.,Andragogy and Pedagogy,  http://agelesslearner.com/intros/andragogy. Html 2005.,
 
 
 
 
  



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