生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2013(平成25)年4月27日
 
 

イギリスの「資格・単位枠組み」 (いぎりすの「しかく・たんいわくぐみ」)

キーワード : 全国共通資格枠組み、イギリス連合王国、資格・単位枠組み、ヨーロッパ共通資格枠組み、能力認証制度
柳田雅明(やなぎだまさあき)
2.イングランドと北アイルランドにおける「資格・単位枠組み」
 
 
 
 
   イングランドと北アイルランドでの枠組みは、両地域に共通したものとなっており、2013年4月現在QCF (Qualifications and Credit Framework, 資格・単位枠組み)と称している。
 実はその前身となる「資格・単位枠組み」はすでに1980年代後半から事実上登場し、政策推進に使用されていた。それは、NVQ (National Vocational Qualifications, 全国共通職業資格) が、職場で発揮される力量を認証する資格として、開発と普及が進められた際、学歴との水準対応を示すための枠組みとして用いられていた。NVQは、半熟練労働者から知的専門職(profession)へと至る5水準(2010年からは8水準)のいずれかに位置づけられている。各水準は、大学入学者選考での「黄金のスタンダード」とされるGCE-Aレベルや大学学位といった威信のある「学術資格(academic qualifications)」に合わせて設定される。国内職種の8割強に対応してNVQが設定され、2009年には労働力人口のおよそ12%がNVQを有することとなった。さらに、HND(Higher National Diploma, 高等全国ディプロマ)やHNC(Higher National Certificate, 高等全国証書)といった学位ではない高等教育水準の職業資格も組み込まれてきた。そして、NQF(National Qualifications Framework, 全国資格枠組み)がという名称が、1991年に明記され、1996年に公式のものとなった。
 このNQFを刷新し2008年に登場しているのが、QCF(Qualifications and Credit Framework, 資格・単位枠組み)である。その名称からわかるように、単位制化をさらに進めて、互換・累積とその生涯にわたる活用が前面に出ている。高等教育機関が授与する学位は、QCFとは基本的に別立てになっているものの、QCFと到達度段階を共有する。なお、NVQは、QCFのもとで再編となっている。従来のNVQ水準4と5は、高等教育機関の学位・証書に合わせて水準設定を細分化している。ただ、NVQは、政策推進の前面に出なくなったといえる。
 QCFに組み込まれている単位・資格群を組み合わせて集積する方式は、その取り組みにおいて先行してきた「見習教育訓練(Apprenticeships)」を例にして示してみよう。1994年以降新たな形の「見習教育訓練」が政策推進されている。「見習教育訓練」では、NVQを典型とする「労働に基盤を置く学習で得た力量」に加え、機能的な基礎学力そして原則として職務に関する理論的知識の習得が併せて求められている。「労働に基盤を置く学習で得た力量」に関する「資格」は、「見習教育訓練」を設定・提供する側がより幅広い中から選択をするものになっている。
 2010年連立政権成立後も、8プラス1の水準からなる枠組みは、維持されている。ただ、QCFの推進にあたって官僚制の弊害が出ているとの不満が実は表面化もしていた。『職業資格の検討:ウルフ報告』が、教育大臣の諮問によるものの独立した立場からの調査報告書として、2011年3月に公になっている。その報告書名にあるように、勧告の焦点は、労働党政権下におけるQCFの下では政策の前面に出ていなかった職業資格というものを改めて前面に出すこと、そして複雑化した資格制度の見取り図を簡明化することといえる。連立政権は、その『職業資格の検討:ウルフ報告』の示した方向のもと、政府が政策に取りかかることを表明している。 添付資料:「資格・単位枠組み」概念図(2013年4月現在)
 
 
 
  参考文献
・柳田雅明. 2010.「能力認証に関する国レベル枠組みの動向: イギリス(イングランド)におけるNQFからQCFへの移行を事例に」『教育制度学研究』17号
・Department for Education. 2011. Wolf Review of Vocational Education: Government Response. London: Department for Education.
 
 
 
 
 



『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。
<トップページへ戻る
 
       
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved.