生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2017(平成29)年1月7日
 
 

学習成果の活用支援方略 (がくしゅうせいかのかつようしえんほうりゃく)

キーワード : 学習成果、eポートフォリオ、人材の顕在化
柵富雄(さくとみお)
2.学習成果の活用における課題
 
 
 
 
  1.学習者の課題と支援
 学習成果を生かしたいとする学習者は多いが、学習者にはさまざまな課題が考えられる。内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成24(2012)年)では、身につけた知識等を仕事や地域活動に生かすにあったっての課題として、「生かすことができるまでの段階に到達していない」(27.2%)、「どのような活動に生かすことができるかわからない」(12.1%)「学んだ内容と求められる内容が一致していない」(9.7%)などの課題が挙げられている。これらの学習者の課題について、学習成果の活用を支援する実践研究を行っている富山県では、次のような支援の課題を挙げている(文部科学省「地域の中核的な生涯学習機関におけるeポートフォリオ・eパスポート活用の実証的研究報告書」、地域eパスポート研究協議会、2014、参照)。
1)学習歴、活動歴に関する振り返り
 「何が生かせるかわからない」、「生かしたいことが願望に近い」、「自身の取り組みとなり得にくい目標」など、何をどのように生かしたいか具体化されていない例が多く見られる。自身の経験や学習の積み重ねを振り返り、セルフアセスメントを促すことで、学習歴、活動歴の意味付けを支援するとともに、知識やコンピテンシーの自己理解を促す支援が求められる。
2)学習成果の達成レベルに関する評価
 「生かせるかどうかわからない」、「自身の学んできたことが求められるレベルに一致しない」などの課題を挙げる者もいる。セルフアセスメントとともに、生かしたい場が求めるレベルに関する評価尺度を提供する支援が求められる。
3)対象とする組織や関係者の理解
 対象とする組織、関係施設、人についての理解や認識が不足したまま、一方的に自身の知識等を活用しようとするケースがある。活用の対象とする地域には、組織や関係施設、既存の活動者などが存在する。これらに関する知識、理解は、資料や説明だけでは十分ではない。実際に出かけて関係施設の職員や地域の人と接することで、生かしたいとする自身の知識や経験が適合するか、具体的な検討を促す。
4)学習歴、活動歴に関する記録と情報の整理
 これらのさまざまな課題の背景に、自身の学習歴や活動歴に関する情報不足、整理の問題が多く見られる。学習を通して得た知識と自身との関わりや問題意識、他者との関わりなどを振り返る手がかりとなる情報を残す工夫が必要である。その一つとしてeポートフォリオの活用が考えられる。これらの記録から知識やコンピテンシーを再評価し、新たな活用の可能性が生まれる。また、支援機関での効果的な相談にも活用できる。
2.支援環境、支援体制の課題
 一方、支援環境、支援体制にもさまざまな課題があることが指摘されている。富山県が行った公民館等への調査では、「県民が学習成果を地域や社会に生かすための主体的な活動を支援している」と答えたのは8.7%にすぎない。支援していない理由として挙げられたのは、「ボランティアや地域活動を志す人が少ない」(16.1%)、「支援のノウハウがない」(11.9%)などとなっており、「職員の減少の問題」(9.2%)を上回る。これまで「学習成果を生かす」出口の支援に十分目を向けてこなかったことが背景にあり、これらの役割を担うための支援人材の養成等が求められる。
 また、学習成果が適切に評価されるしくみについても一層整備が求められる。資格認定制度により公的に評価される分野は多いが、職場で実践を通じて学ぶ専門知識やコンピテンシーなど、多様な実践知に関する評価尺度についても規定が望まれる。
 
 
 
  参考文献
・内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成24年7月)   
・中央教育審議会学習成果活用部会「個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について(答申)」(平成28年5月)
・柵富雄「学習成果の活用を考える市民の課題と支援方略」、日本生涯教育学会論集、第37号、2016
・文部科学省「地域の中核的な生涯学習機関におけるeポートフォリオ・eパスポート活用の実証的研究報告書」、地域eパスポート研究協議会、2014
 
 
 
 
 



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