登録/更新年月日:2011(平成23)年1月24日 |
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「朝の読書」に関する研究は、小学校・中学校・高等学校などの教育現場における児童生徒の感想や、実際に読まれた本の種類及び冊数の統計、教師の観察により得られた学校生活上の児童生徒の変容、黙読以外のバリエーションとしての読書活動の実践報告、「朝の読書」における教師と生徒との関わり方、継続発展させていくための工夫など、教育実践を核としながら多岐にわたっている。そこでは、「朝の読書」の教育機能や教育的意味について、実践校からは類似した内容の報告がされており、「朝の読書」は、概ね読書指導と生徒指導の両面から肯定的な評価を得ている。 山崎らの研究では、「朝の読書」が小中学生の学力に及ぼす影響についての検討が行われ、その結果、学校での授業、スクールモラール、教師との人間関係などに影響のあることが実証されている。薬袋による文献研究では、読書活動そのものの直接的な効果と、それ以外の派生的な効果に2分類して、次の16点に整理している。「直接的な効果」には、「1)静かな環境の中で読書ができ、読書に集中できる。2)静かな環境で読書するため、自分と対話することができる。3)遅刻が減り、ホームルーム(学級活動)に集中できる。4)授業にスムーズに入れ、授業に対する集中力が高まる。5)読書が嫌いな生徒が本を読むようになり、読書が好きになる。6)自分に合った本を選ぶため、全員が同じ経験、学習ができる。7)読書の時間が増え、図書館・書店に行き、本を探す機会が増える。8)言語能力(読み、理解し、考え、想像し、表現する力)が身に付く。9)周囲の人々との対話が増え、本の貸借を通じて、人間関係が広がる」。「派生的な効果」では、「10)感情の体験を積み重ねることによって、感情が統御され、情緒が安定する。11)さまざまな生き方、考え方に接することができ、必要なものを入手できる。12)安定した情緒と言語能力が基礎学力の土台を形成し、その低下を補う。13)規則正しい生活習慣の形成に役立つ。14)自主性、自立の精神を身に付けることができる。15)心が落ち着き、人の心の痛みが分かり、思いやりが身に付く。16)以上をもとに、人間的に成長し、自分に自信と誇りを持つようになる」。ここに示された効果には、生徒指導的側面(2・3・4・9・10・13・14・15・16)が抽出されているといえよう。 読書が持つ教育的意義には、「追体験」、「自己教育」、「自己教育を支える自己概念の育成」等を挙げることができる。また、暴力行為と自己制御あるいは防御の観点からは、感情脳とも呼ばれる「辺縁系」と読書の関連についての指摘がされている。「練習」という視点では「朝の時間、特に一日の仕事を始める前が、そのために適している」と意味付けられている。これらのことは、「朝の読書」と緊密な関連があると考えられる。 現在、「朝の読書」は、日本の多くの学校において普及している。実施校が増えてきた要因には、生徒指導の機能が評価されてきた側面がある。しかしながら、「朝の読書」の教育的価値については、児童生徒にどのような力が身に付いたのかを客観的に示すエビデンスに基づいたデータが不足しているために、主観的な評価にとどまっている状況が見られる。今後は、「朝の読書」により育つ力を実証的に示していくことも必要であると思われる。 br> |
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参考文献 ・山崎博敏編著『学力を高める「朝の読書」』メディアパル、2008. ・薬袋秀樹「朝の読書の評価のためのアンケート調査」日本生涯教育学会第31回大会自由研究部会U発表資料、平成22年11月27日. ・梶田叡一『子どもの自己概念と教育』東京大学出版会、1985. ・バリー・サンダース、杉本卓訳『本が死ぬところ暴力が生まれる』新曜社、1998. ・O.F.ボルノウ、岡本英明監訳『練習の精神』北樹出版、2009. |
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