生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年11月2日
 
 

研究課題・学習成果認証において社会的包摂をいかに実現するのか (けんきゅうかだい・がくしゅうせいかにんしょうにおいてしゃかいてきほうせつをいかにじつげんするのか)

How do we realize social inclusion at assessment to learning outcome?
キーワード : 学習成果認証、社会的包摂、資格、診断的評価、スコットランド
柳田雅明(やなぎだまさあき)
1.課題はどこに存在するのか
  
 
 
 
   従来型の学習成果認証は、競争試験に代表されるように、専ら選別のための手段としてばかりに使われてきた。そして、競争試験すなわち学習成果認証との認識のもと、優秀者を選びそれ以外の者の学習機会を閉め出す手段となるということが肌で感じられてきたのである。また学習成果認証とは、所詮そのようなものとして、できれば忌避したいものであるとも思われがちであった。
 一方、社会的包摂(social inclusion)とは、社会的排斥(social exclusion)の反対概念である。すなわち、社会で生きていく上で排除・差別・疎外・無視といった望ましくない状況をなくすことができた状態のことである。
 そういう事情もあって、学習成果認証は、社会的包摂とは相容れないものと少なくも日本において思われがちである。
 しかし、そのような状態は、実は不適切である。排斥・選別になるからといって、学習成果認証をしないですませるとか、形式だけの認証でお茶を濁すわけにもいかない。すでに、社会的に不利な立場にある学習者を、中でも特に障害がある学習者を診断し、より良い学びへと導くような学習成果認証がすでに存在している。そして、当然門地・性別・年齢といった差別はあってはならず、生涯にわたる適切な学習機会との対応関係が欠かせない。
 そこで、あらゆる人たちが正しい学習成果認証を受けて、その利益が学習者個人にも社会全体にももたらされるような学習成果認証のための社会制度設計がここに提起されるのである。
 もちろん、その成果活用を考えれば、特に生命、尊厳、財産等にかかわる分野の場合、厳しい他者評価が必要となる。
 ここに、学習成果認証における厳正さと社会的包摂をいかにして両立させるかという課題を生じるのである。
 また、選別という発想を超えて継続的な学習成果認証を考える際、関係教育訓練機関等のスムーズな連携方式を考える必要があろう。そうなると、形成的評価と総括的評価という2分法でなく、学習成果認証は、その認証を受けた者すべてにとっての診断的評価という性格を持つことが望ましいこととなる
 また、学習成果認証の引き継ぎ・連携の容易さとその安全確保を考えれば、包括的な制度設計が欠かせなくなる。いわば社会におけるポータビリティ(継続的持ち運び可能性)の実現が求められるのである。それは、たとえば、イギリスにおいては学習成果累積型ポートフォリオの全国共通書式ひな型であるプログレス・ファイル(Progress File)とその電子化への取り組みなどで始まりつつある。
 なお、岡本包治は、1993年時点で学習成果の評価は「学習者自身の『本人の求め』に限定すべきであるという見解は常に正当なものである」とした。しかし、社会的包摂といった場合に、本人が求めなくても、能力認証すべき分野はありそうである。さらに『本人の求め』を待っているだけでなく、『本人の求め』を本人にとっても有益になるように積極的に表明できるような学びの場を設定すべき時機にも来ていると筆者は認識する。
 
 
 
  参考文献
・岡本包治『学習ニーズに応える資格』 ぎょうせい, 1993年.
・柳田雅明『イギリスにおける「資格制度」の研究』 多賀出版, 2004年.
・柳田雅明「ポートフォリオ利用によるキャリア設計学習の検討: イギリスにおけるプログレス・ファイルへの移行を手がかりに」『カリキュラム研究』14, 2005年.
 
 
 
 
  



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