生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

社会教育の歴史−明治期 (しゃかいきょういくのれきし−めいじき)

キーワード : 通俗教育、通俗教育調査委員会、三条教憲、山名次郎、社会改良
蛭田道春(ひるたみちはる)
1.三條教憲、欧米の成人教育の導入と図書館・博物館の設置
  
 
 
 
   「三條教憲」(教則三条)は明治5(1872)年に布告され、「敬神愛国」「皇上奉戴」などの皇国思想による国民教化の基本大綱で、その後の国民教化運動、社会教化運動に関わる基本的考え方を示したものであった。
 また、欧米の成人教育の導入である。幕末から明治初期にかけて、欧米から紹介されている社会教育は、ほとんど図書館、博物館などを見聞した記録である。例えば、次の如き文献に報告されている。
・航米目録、玉虫左太夫、万延元(1860)年
・西洋事情、福沢諭吉、慶応2(1866)年
・特命全権大使米欧回覧実記、岩倉具視、明治4(1871)年
 そのほかに万国博覧会などに出席した人々、例えば、田中芳男、田中不二麿、手島精一などによる見聞報告がある。その結果、わが国でも明治3(1870)年、政府は物産局仮役所を設置したのが博物館の創始である。同4(1871)年、文部省に博物局を置き湯島聖堂内に博物局観覧場を設ける。同8(1875)年、この博物館を東京博物館と改称する。また、同5(1872)年、文部省博物館内に書籍館を設け、その後同8(1875)年、東京書籍館と改称する。これらの施設は、西洋の文物に関して民衆を啓発するのに大きな役割をはたした。とくに、図書館は、学校教育を受けられない人、あるいは卒業後、知識を得たい人などには知識の開発を提供する施設として位置づけられていた。このように、図書館や博物館は、早くから西洋文化の影響をうけながら、創設されたものであった。
 そのほかに、明治初期に西洋文化の紹介をしたものに、明六社の役割をあげることができる。明六社は、当時の知識人(福沢諭吉、中村正直、加藤弘之、森有礼、西村茂樹、西周)などの西洋学派がメンバ−となって活動した団体である。その目的は、欧米の学者が学術研究だけでなく、彼等の知識を民衆に啓発している事実に基づき、わが国の教育をすすめるために、わが国の学者もその啓発活動をしてはどうかということによる。そして活動内容は西洋流の知識を紹介したもので政治、法律、外交、経済、社会、哲学、宗教、教育など広範囲にわたっていた。
 このように明治初期には、欧米の影響もあって、書籍館、新聞縦覧所、博物館の設置、明六社の活動があったが、その他に自由民権運動家等の夜学等が展開された。
 しかし、明治初期の欧米文化の知識は実際には根づかず、むしろ紹介的知識にすぎなかった。実際に、わが国に欧米の成人教育の考え方が紹介され、根づいたのは、明治後半からである。明治44(1911)年の通俗教育調査委員会は、米国の成人教育を調査しているし、また文部・内務両省の通俗教育調査は欧米諸国の成人教育の実態を報告している。

 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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