生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2009(平成21)年12月30日
 
 

親の離婚を経験した子どもたち (おやのりこんをけいけんしたこどもたち)

children whose parents were divorced
キーワード : 離婚率、ステレオタイプな家族像、親が離婚した子どもへのまなざし、ダブルバインディングな親子関係、ファミィリィ・アイデンティティ
梶井祥子(かじいしょうこ)
1.離婚率から見た戦後日本の家族
  
 
 
 
   戦後の日本の家族を離婚率(人口1000人当たり)から概観すると、昭和30(1955)年から低下傾向が続き昭和38(1963)年には0.73という戦後最低の値を示した。その後は離婚件数とともに離婚率もゆるやかに上昇し、昭和58(1983)年には1.51に至る。それから10年間は一時的に離婚率が低下するが、平成6(1994)年からは再び上昇に転じ2005年に2.08となった。
 1950年代後半から1970年代前半までの高度経済成長期は、「サラリーマンの夫と専業主婦の妻に子ども2人」という標準家族が大衆化した時期と捉えることができ、低い離婚率から見ても社会における家族基盤が安定していたと言える。
 昭和60(1985)年の時点で親の離婚を経験している子どもの数は全国で20万人を超えた。ここ数年は25万人前後で推移する傾向にあると思われる。18歳未満の児童がいる世帯のうち、「ひとり親と子どものみ」の世帯は昭和50(1975)年では3.1%であったのが、平成18(2006)年には6.8%に増加した。戦後いずれの時期においても、離婚する夫妻のうち、「子どもあり」のカップルは「子どもなし」より多くなっている。離婚後の子どもの親権については、昭和40(1965)年までは「父親が全部の子どもの親権を行なう」場合が母親のそれを上回っていたが、昭和41(1966)年から逆転し、現在は「母親が全児童の親権を行なう」場合が約8割になっている。昨今は、一人親世帯の相対的貧困率が社会問題化している。特に、母子家庭の平均年収は二人親家庭の半分以下であり、厳しい家計状況にさらされている。離婚の当事者は夫妻だけではなく、それによって経済的、心理的影響を受ける子どもたちもまた当事者以上の存在であると考えられる。
 日本では、家族社会学における離婚研究の蓄積は厚いとはいえない。調査対象者へのアプローチが難しいことが理由のひとつとして挙げられる。離婚を経験した「子ども」を対象にした調査研究となると、心理学や法学の分野で臨床事例研究や面接交渉権に関わる調査として散見される程度である。
 筆者は平成15(2003)年から平成19(2007)年にかけて、札幌市において親の離婚を経験した子ども(高校生以上)へのインタビュー調査を行なった。子どもは親の離婚によって一方的に影響を受けるだけの存在ではない。本インタビュー調査からは、親の離婚を受けとめ、主体的に乗り越えていく子どもの姿が立ち現れた。例えば、「親の離婚は経験しないほうがいいものですけど、自分の精神的なものが成長していくステップアップということでは、逆に周りにいる友人たちより早い段階で考え方を成長させるきっかけにはなったんじゃないかなって思います」というような語りが典型的なものである。そこには、親の離婚を客観視するような距離感覚がうかがえる。子どもは状況の変化に対応し成長し続けるものだが、「親の離婚」という経験も、ときには子どもたちが思慮深く慎重に生きていくことを促す契機となりうることが示唆される。しかし、当然のことながら、親の離婚の影響を自分の人生のなかでどのように位置づけ、それをどのように乗り越えるかは、離婚時の年齢や親から離婚についてどのように説明されたか、また離婚前の両親の葛藤状況などによっても左右される。以下の項では、「親の離婚を経験した子どもたち(高校生・大学生)」を対象とした調査結果から得た知見を記していく。なお、インタビュー調査の対象者は16歳以上の男女26名である。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



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