生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2015(平成27)年3月18日
 
 

三重大学における「いま、変える、大学の学び」の実践 (みえだいがくにおけるいまかえるだいがくのまなびのじっせん)

a practice about “Now, Change the Learning of University” in Mie University
キーワード : 大学教育改革、熟議、教員の教育力の向上、授業方法・内容の改善、大学入試の改善
宮崎冴子(みやざきさえこ)
1.大学教育改革と熟議
   
 
 
 
  【定義】
 「熟議」の用語は「関ヶ原の戦いで自らの立つ位置の決定に際して[君臣、熟議すること三日]」と江戸時代末期の頼山陽による『日本外史』に記載されている。文部科学省は「多くの当事者が[熟慮]と[討議]を重ねて政策提言することで、具体的には課題について学習・熟慮し、討議することで、互いの立場や果たすべき役割への理解が深まるとともに、解決策が洗練され、個々人が納得して自分の役割を果たすプロセス」と定義している。
【説明】
 平成24(2012)年、中教審大学分科会は「審議のまとめ」で「学生が主体的な学びを深めるとともに学生同士が切磋琢磨し、相互に刺激を与え合いながら知的に成長することができるよう学生の思考力や表現力を引き出し、その知性を鍛える双方向の課題解決型の能動的な授業を中心とした質の高い学士課程教育へと質的に転換を」と強調した。これを受けて「大学教育改革地域フォーラム2012in三重大学」を授業の教材として平成24(2012)年7月21日に開催した。その目的は「大学は誰のものか、大学の学びとは何か」と原点に戻って熟議し、政策提言することである。
 前期の共通教育『キャリア形成・能力開発』の授業で学生がサブテーマや広報、記録等を準備し、本番ではファシリテーター、PC記録者、総合司会、受付、機材係等、すべてを担当して運営した。当日は学生・院生、教員、行政、企業、NPO、市民等が一堂に会して大学教育改革について提言した。参加者は60名に絞り、他に運営係6名、文科省や大学関係者を含めて合計76名である。 
 サブテーマは「教育方法・内容の改善、学修支援の改善、教員の教育力の改善、実質的な学修時間の確保、大学入試の改善」である。当日の提言を「熟議のまとめ」として文章化し、中央教育審議会大学分科会大学教育部会(平成24(2012).8.9)の提言書、若者雇用戦略推進協議会(平成24(2012).11.6)の委員資料として提出した。おもな提言は「能動的・主体的な授業へ再編成」「社会で活きるイノベーティブな授業へ転換」「グローバルな人材育成の授業」「キャリア教育の必修化」「奨学金貸与や企業化の支援」「大学入試に面接・口頭試問の導入」等である。
 参加者の評価は、回答53通(有効回答率69.7%)のうち「非常に満足+やや満足」が96.2%で、「学生による授業評価」は「この授業に満足」は全員が満足度5.0(5段階)で、「新しい知識・考え方・技術などが獲得できた」4.75がつづき、他のキャリア教育科目や共通教育科目の平均値と比べて顕著であった。三重大学教育目標である「感じる力は感性、共感、モチベーション」「考える力は課題探求力・解決力」「コミュニケーション力は情報発信力、対話・討論力」が選択率75%以上で、なかでも「対話・討論力」は100%の全員が選択し、アクティブラーニングとしての有用性が実証された。
【課題】
 学生たちは「熟議」を契機に多種多様な意見に出会い、人生の先輩方から多くのことを学んで成長した。学生が当事者意識を持って課題解決に取り組んだので、教材としての成果があった。また、産学官連携が拡充されたので大学は地域貢献ができ、地域は大学の教育カリキュラムに密接に関わり、地域ぐるみで若者を育成することができた。
 今後への課題はファシリテーターの更なるスキルアップをして、「熟議」のまとめにもう少し時間を増やすことである。
 
 
 
  参考文献
・宮崎冴子『2012年度キャリア教育報告書 キャリア教育の実践と評価 2012』 2013年
・文部科学省・中央教育審議会大学分科会大学教育部会(審議まとめ)  『予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ』 2012年3月

 
 
 
 
   



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