生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

企業内教育・研修 (きぎょうないきょういく・けんしゅう)

education and training in enterprise
キーワード : 階層別教育、OJT、OffJT、キャリア形成、エンプロイアビリティ
渡邊一久(わたなべかずひさ)
1.企業内教育・研修
   
 
 
 
  【定義】
 経済・産業構造の変化や国際競争の中で企業が存続し成長するには、製品・サービスの高付加価値化を進めることが必要である。製品・サービスを高付加価値化するには、その製品・サービスの中へ新たに開発し、工夫した知恵を組み込みことのできる人材が求められる。このような人材の育成と蓄積に向けて行う企業活動の一端が、企業内教育・研修である。
【特徴】
 歴史的変遷の中でこれまで企業内教育は、企業固有の職業能力の習得や管理者養成に向けた階層別教育を中心に展開されてきた。時代の進展と共に企業に求められる人材像・能力像は変化し、働く側の意識にも変化を与え、大きな変革をもたらしつつある。わが国の企業内教育の特徴は次のように言われてきた。
1)OJT・OffJT・自己啓発による職務遂行に必要な知識やスキル形成が中心であった。
2)集合教育は階層別研修が主で、短期的な視点の職務遂行教育が中心であった。
3)経営戦略や人事制度との連動や個々の従業員に対するキャリア形成の視点が欠け、専門家や経営者が育ちにくい面があった。
4)教育・研修の場が企業内という狭い場、内部労働市場に限定されていた。
【動向】
 企業内教育が教育投資の効率性の観点から、教育・研修の「選択と集中」を進める方向へ企業は歩みだした。これまでの社員の能力レベルを全体的に高める「底上げ」教育から、特定の社員を「選抜」して教育する方針への転換である。能力開発の責任主体は企業責任から個人の自己責任へと大きく変化しようとしている。能力開発、キャリア開発の自己責任化の背景がここにある。これらに伴う教育研修の外部化・専門化の進展も予想され、教育訓練機関と企業、個人のあり方も変化すると思われる。WBT(Web Based Training)・CBT(Computer Based Training)・Eラーニングなどパソコンの活用は、学習の方法・手段に変化をもたらしている。産学連携による大学と企業の研究者同士の交流や共同研究、リカレント教育として学校が企業の人材育成を支援する、企業と学校の結びつきを強調する答申が政策として文部科学省などから発表されている。
 長期減少傾向にある企業の教育研修費を増大させるために、経済産業省は「人材投資促進税制」を創設しようとしている。企業の生産性向上・経営革新を通じて、わが国産業全体の競争力の上昇がねらいである。団塊世代の定年到達や若年労働力減少時代の到来で、ものづくり技術の伝承等を進め、産業競争力を強化するためには、企業内教育・研修投資を活発させることが緊急の課題である。日本経済団体連合会も「若手社員の育成に関する提言」を行っている。内部労働市場のみならず外部労働市場でも通用しうるエンプロイアビリティの習得である。個人が「いまの能力を知る」・「企業・市場が必要とする能力を知る」ことを通して、自らの能力開発とキャリア形成の計画を考えることが求められる。
 
 
 
  参考文献
・桐村晋次著『人材育成の進め方 第3版』日本経済新聞出版局 平成17(2005)年
・高橋由明編著『教育訓練の日・独・韓比較』中央大学出版部 平成8(1996)年
・明治大学企業内教育研究会編『人材活用と企業内教育』日本経済評論社 平成12(2000)年
・下川浩一著『日本の企業発展史』講談社 平成2(1990)年
・厚生労働省職業能力開発局総務課基盤整備室「平成16年度能力開発基本調査結果概要」 平成17(2005)年
・労働政策研究・研修機構「教育訓練とキャリア相談に関する調査」 平成16(2004)
 
 
 
 
   



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