生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年12月13日
 
 

研究課題・科学・技術と生涯学習 (けんきゅうかだい・かがく・ぎじゅつとしょうがいがくしゅう)

science, technology, and lifelong learning
キーワード : 科学・技術、科学リテラシー、論争的課題、参加、熟慮型民主主義
山本珠美(やまもとたまみ)
2.学習活動が伴われた参加
  
 
 
 
   地球温暖化や遺伝子組換、脳死など、一般市民の生活に大きな影響を及ぼしかねない問題でありながらも、専門家の見解が分かれている課題、あるいは科学的事実によっては評定ができない価値判断を含むがゆえ社会に意見対立が見られる課題について、科学的技術的側面のみならず社会的倫理的側面にまで配慮しつつ教育を行うのは存外難しい。一般論としては、客観性や中立性、多様な視点(あるいはバランス)が求められると言われ、例えば科学系博物館という公共空間における展示制作過程では、多様な外部組織と連携した委員会を設けて内容の検討を進めることで特定領域のパブリック・アクセプタンス活動に陥ることなく中立性を保証しようとする試みが見られる。しかし中立性やバランスという言葉は定義が難しく、対立する相手を批判するのに便利な用語として使われやすいということは、複数の事例が明らかにしているところである。“博物館(展示)の政治性”は常に問われる。
 そのような状況の中、1980年代半ば以降欧州諸国を中心に展開した参加型テクノロジー・アセスメント(Participatory Technology Assessment)の試みが注目を集めている。無作為抽出等で選ばれた一般市民と、テーマとして選択された科学・技術に関する専門家やステークホルダー(利害関係者)との対話による相互学習の過程を通じて、市民だけあるいは専門家らと協働して政策提言や勧告文をまとめるという取組で、中でもデンマーク議会付属技術委員会が実施するコンセンサス会議(Consensus Conference)が有名である。
 現代は社会の構成主体の間での認識や価値観が顕著に異なっており、それゆえ主体間で利害関係の差が生じるなど社会の内部に様々な軋轢を招く可能性が高まっている。これは、政府や専門家といった一部の主体の判断によって社会全体における合理性や妥当性を確保することが困難になっていることを意味する。参加型テクノロジー・アセスメントはその中で新たに考え出された合意形成手法であり、熟慮型民主主義(または討議型民主主義、Deliberative Democracy)の現れとして位置付けられている。
 これは学習自体が目的ではなく、政策提言や勧告文作成のための前提条件として学習プロセスが組み込まれている取組であるが、専門家から一般市民への知識の一方通行を越える可能性を秘めた試みとして、論争的課題に関する学習を考えるにあたり示唆するところは大きい。しかし、関連する実践事例の紹介は見られるものの、ワークショップ手法(ファシリテーターを議論の推進役とし、小集団に分かれて議論を重ねる方法)を取り込んだその学習プロセスについては、批判的検討が十分になされているとは言い難い。そもそもこの取組は専門家主義・専門知の陥穽をアマチュアリズム・素人の日常知によって乗り越えようとする試みと言い換えることができるが、専門家に相対する素人の力量(およびその形成)が問われるのは当然であろう。形式的な参加に留まるならば、新たな操作に繋がるとの危険性も指摘されている。
 専門家と一般市民との双方向的な交流のあり方は、今後の課題として残されている。
 
 
 
  参考文献
・小林傳司『誰が科学技術について考えるのか−コンセンサス会議という実験』名古屋大学出版会、2004年
・Steyaert,S.and Lisoir,H.eds. Participatory Methods Toolkit: A practitioner's manual, 2nd edition, 2005(2006年12月現在、ベルギーのフランデレン議会付属科学・技術アセスメント機構よりダウンロード可、http://www.viwta.be/files/30890_ToolkitENGdef.pdf)
 
 
 
 
  



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