生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2007(平成19)年12月26日
 
 

映画教育と生涯学習 (えいがきょういくとしょうがいがくしゅう)

screen education and lifelong learning
キーワード : 映画教育、芸術教育、映画鑑賞教育、映像コンテンツ、市民映画鑑賞会
市川昌(いちかわあきら)
2.映画教育の歴史
  
 
 
 
   映画教育の歴史は戦前の明治、大正、昭和初期の社会教育である通俗教育の時代から始まる。日本に初めて映画が輸入されたのは、明治29年(1896)であり、アメリカのエジソンが発明したキネトスコープが上映用フィルム2巻とともに、神戸港に陸揚げされた。翌年の明治30年(1897)にフランスのリュミエール兄弟が発明したシネマトグラフが大阪に輸入された。フランスのシネマトグラフは、リュミエール兄弟社の技師であるカメラマンも来日したため、明治時代の日本の風物である芸伎の踊りや歌舞伎などの映像がヨーロッパにも紹介された。
 明治44年(1911)には、フランスの犯罪映画「ジゴマ」が日本公開され、大人だけでなく青少年にも愛好されたため、教育問題となった。「ジゴマ」は変装した盗賊であるジゴマが、パリ市内で盗みを働き、警官に追われて逃げ回るが捕まらないというストーリーで人気が出た。子供たちが変装してジゴマ遊びに熱中したので、父兄や教師の批判の対象となり、映画上映禁止運動が起きた。大正6年(1917)に文部省は「児童と活動写真興行との関係に関する調査」を行い、帝国教育会は「活動写真取締建議」を提出、映画の否定的見解が多かった。しかし文部省は世論の映画取締に合わせて、風紀秩序維持のため小中学校に児童の取締を要請する一方、欧米諸国での映画の教育的利用にも注目して、教育映画を製作させ、「教育映画デー」を制定したり、「講堂映画会」運動も推進した。また学校教育における映画教育を推進するため奈良県桜井小学校を会場に「初等教育研究大会」で、地理、理科などの教材映画をとりあげた。
 昭和9年(1934)に鈴木千代松は、教員の立場から具体的な社会事象や自然観察に映画教材が有効であると報告した。文部省の関野嘉雄は「映画教育の理論」を昭和17年(1942)に発表して「映画は教室の動く掛図でなく、新しい芸術であり、独自の映画文法と作品性を持つ」と指摘し、映画教育論は「教材か芸術か」の論争に発展した。教育映画デーは広がらなかったが、講堂映画会の巡回興行は戦争中、戦後も発展し、学校映画連盟の加盟校は1000校を越した。
 第二次世界大戦後は、敗戦後の社会教育において民主主義を徹底するため、昭和23年(1948)ごろからCIE映画やナトコ映画機材による巡回映画教室が全国各地で実施されて、教育映画制作が盛んになり、優秀映画の選定は文部省の重要な施策となった。有光成徳訳のE.デールの「学習指導における視聴覚的方法」や波多野完治の認識論的立場からの「認識過程と教育課程」「映像と教育」などは、視聴覚教育理論として大きな影響力を持った。
 テレビ放送が盛んになると映画教育は衰退したが、テレビ番組と違った映画の魅力が最近注目されて文化庁は近代美術館フィルムセンターと優秀映画鑑賞推進事業は最近も着実に成果をあげ、フィルムセンターに所蔵された著作権処理された優秀映画を全国の生涯学習機関への貸し出し、上映機会を豊かにした。この優秀映画鑑賞推進事業は生涯学習機関における映画教育のネックであった著作権処理とフィルム管理を容易にしたことで、大変大きな成果をあげている。
 最近では小津安二郎監督特集、成瀬巳喜男監督特集などが注目される。アニメーション映画では宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」「風の谷のナウシカ」などの鑑賞と児童心理や環境学習と関連した生涯学習が実践されている。欧米諸国ではイギリス、フランス、スペイン、カナダなどが映画教育と生涯学習カリキュラムの展開で効果をあげている先進例となる。21世紀の高齢化社会を迎えて映画教育はテレビやマルチメディアと違った芸術教育の一環として、ますます発展が期待される。
 
 
 
  参考文献
・デール著、有光成徳訳「学習指導における視聴覚的方法」政経タイムス、1950
・デール著、西本三十二訳「視聴覚教育」日本放送教育協会、1957
・波多野完治など著「映像と教育」日本放送教育協会、1980
・坂元昂編「教育の方法と技術」ぎょうせい、1991
・浅野孝夫・堀江固功編「新視聴覚教育」日本放送教育協会 1992
・市川昌、堀江固功編「マス・コミュニケーション」日本放送教育協会、1991
・市川昌「現代文化とコミュニケーション」青山社、1996
 
 
 
 
  



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