登録/更新年月日:2007(平成19)年12月26日 |
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私たち一人ひとりの生涯にわたる学習の必要性を考えるとき、人間の発達観と学習可能性の問題は、避けて通れない事柄である。発達を子どもや青少年の時期までの事柄と考えたり、「老いた犬にトリックを教えてもしょうがない」といった諺のように高齢期になると新しいことを学習できないという前提に立つと、生涯学習自体がナンセンスである。現在では、成人になっても、さらに高齢期になっても発達し変化していくという生涯発達の考え方や、歳をとってからも伸び続け努力によって衰えない知力があることなどが研究され、生涯学習の可能性を裏づけている。 では、人は歳をとるにつれて、成人期以降どのように発達し変化していくのか、そしてそれが学習とどのような関わりをもっているのか。このような成人期の学習に関する知見はアメリカの研究者から学ぶものが多い。実証的研究において、成人は、人生において発達上の問題と変化に直面したときに、学習しようという気持ちになり、またそのとき最もよく学ぶことが明らかにされている。例えば、子どもをもつという変化に直面したとき、親としての役割を果たし親として生きる力を身につれるために親学習プログラムに参加する。配偶者の死に直面し、その喪失感から立ち直り単身者としての生活を確立するために同様の経験をもつ人たちのセルフヘルプグループに参加する。また、失業し、転職に有利な専門的知識を身につけるために、専門学校や大学に社会人入学する。これらの人生の大きな変化の時期を「過渡期」といい、この時期は危機の時期であると同時にチャレンジの時期でもある。この時期の学習の質がその後の生活の質を決める一つの大きな要因となる。 成人期の学習においては、このような変化に対処するための学習だけでなく、変化を自ら「創り出す」学習活動もある。筆者は日本の女性学習者の特徴を、彼女たちの学びのキャリア(積み重ねた学習活動の経験)の中から実証的に明らかにすることを試みた。彼女たちは、40歳から50歳にかけての人生の折り返し点、子どもをもつ女性にとっては子育てが終わる時期を、学習活動を媒介にして乗り切り、人生の転換を果たしたいと考えている。 「生活を変えたい。生き方を変えたい」という思いをもって学習活動に従事し、その成果として人生の転換を果たした、あるいは果たそうとしている女性たちのケースをみると、変化に対処するためというよりも、変化を「創り出す」ための学習活動である。彼女たちにとって学習活動は、それまでの生き方を変え新たな人生を切り拓く「鍵」なのである。 教育社会学者の天野正子は、生涯学習論・学習社会論の背景には、学習者に学ぶことの意味づけをあたえ得なくなってしまった、現代の学校教育のもつ「抑圧性」に対する批判があるにもかかわらず、これまでの生涯学習をめぐる議論には各個人の生活体験の意味にもとづいて行われる多様で個別的な学習要求や教育必要の存在が見落とされていると指摘している。 私たちの一生には大きな転換点が点在しており、その変化に対処するためであれ、変化を創り出していくためであれ、それらを一つひとつ乗り越える生涯学習の質が人生の質を左右するのである。 br> |
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参考文献 ・山本恒夫・浅井経子・渋谷英章編『生涯学習論』文憲堂、平成19(2007)年。 ・シャラン・B・メリアム、ローズマリー・S・カファレラ『成人期の学習−理論と実践−』鳳書房、平成17(2005)年。 ・葛原生子「学習者としての成人女性に関する研究」『安田女子大学大学院開設記念論文集』、平成7(1995)年。 ・天野正子「ライフコースと教育社会学−特集にあたって」日本教育社会学会編『教育社会学研究第46集』、平成2(1990)年。 |
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