生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2015(平成27)年1月1日
 
 

ラーニング・ツゥ・ビー (らーにんぐ・つぅ・びー)

Learning to be
キーワード : 国連教育科学文化機関(ユネスコ)、フォール報告書、未来の学習、学習社会、国立教育研究所
岩崎久美子(いわさきくみこ)
1.概要
   
 
 
 
  【定義】
 ラーニング・ツゥ・ビーは、1972年第17回国連教育科学文化機関(ユネスコ)総会の教育部会で提出された報告書であり、原著英語タイトルは、Learning to be‐The world of education today and tomorrowである。報告書は、1971年に第6代ユネスコ事務総長ルネ・マウ(René Maheu, 1905-1975, ユネスコ事務総長任期:1961-1974)が任命した7名からなる教育開発国際委員会(International Commission on the Development of Education)により作成されたものであり、委員長のエドガー・フォール(Edgar Faure, 1908-1988)の名前をとって、「フォール報告書」とも呼ばれている。なお、生涯教育を提唱したポール・ラングラン(Paul Lengrand, 1910-2003)がユネスコでの事務局として関わっている。
 報告書は、日本では、国立教育研究所(当時)フォール報告書検討委員会により翻訳され、『未来の学習』という日本語タイトルで、1975年に刊行された。
【四つの基本前提】
 報告書に至る議論の過程では、当初確認された四つの基本前提があった。第一は、国民、文化、政治、発展など、その内実は多様でありながらも、基本的連帯を可能にする国際社会が存在すること、第二は、自己の潜在的可能性を伸ばし、教育などの個人の権利を保証する民主主義への信念があること、第三に、開発の目的は人間の自己実現であること、第四に、全面的かつ生涯にわたる教育のみが「完全な人間」を創造するのであり、全生涯を通じて絶えず進展する知識の実態を構築する方法、つまり「生きることを学ぶ」必要があること、である。
 この前提に立ち、報告書は、第1編「教育の現状」(Findings)、第2編「未来」(Futures)、第3編「学習社会を目指して」(Towards a learning society)から構成されている。
 報告書において、“learning to have”という言葉との対比において述べられるのは、物質的な何かを得るのではなく、自分の内面的成熟を求め、人間として生きるための学習の持つ意義への思いであり、それが“learning to be”という言葉の意味するところである。
【主要な観点】
 報告書の意義としては、1)教育の発展を社会の歴史的発展の中に位置づけようとしていること、2)生涯教育の観点から学校教育の役割を見直そうとしていること、3)特に民主主義の原理に立脚した教育改革への提言として、「完全な人間」の創造を目指す「学習社会」を提唱したこと、がある。
 報告書では、未来の学習のあるべき姿として、生涯にわたる学習を通じた「完全な人間」への創造、自己実現、そしてそれらを保障するための「学習社会」の構築が謳われている。報告書全体を通じ、そこには個人や社会に対し学習の持つ意義と可能性への期待、そして学習者の主体性や前向きな生きる姿勢に対する全面的な信頼がみてとれる。
 
 
 
  参考文献
・ユネスコ教育開発国際委員会(国立教育研究所内フォール報告書検討委員会訳)『未来の学習』第一法規、1975.
・新井郁男編『ラーニング・ソサエティ‐明日の学習社会をめざして‐』(現代のエスプリNo.146 )至文堂、1979.

 
 
 
 
   



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