登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日 |
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【今澤慈海の経歴】 今澤慈海(1882-1968年)は1907年東京帝国大学哲学倫理学科を卒業、明治41(1908)年に東京市立日比谷図書館の開館した当初から同図書館の業務に携わる。大正4(1915)年より全東京市立図書館を統括する館頭に就任し、昭和6(1931)年に東京市を辞職するまで東京市立図書館の発展に貢献した。この他、日本図書館協会会長等を歴任し、文部省図書館員教習所(後に講習所)の講師を務めている。1934年より成田に居を移し、成田中学校校長、成田図書館館長を務める傍ら、『成田山史』及び『千葉県史』編纂にも携わっている。主著に『図書館小識』(1915年)、『児童図書館の研究』(1918年、竹貫直人と共著)、『図書館経営の理論及び実際』(1926年)などがある。 【「生涯的教育」論の説明】 今澤の最初の図書館論は『図書館小識』(1915年)に見出される。この中で図書館は年齢性別、学校の在不在を問わず、学習期間を限定せずに学校教育の不足を補いながら自己教育を行う特質を有し、小学校教育に始まる教育を「終身継続する」機会を成年者に与える機関であると位置づけられた。 今澤が「生涯的教育」という語を初めて用いたのは「公共図書館の使命と其達成」(1920年)においてである。ここで今澤は「人格活動は生涯的」であることから教育も生涯的でなければならないこと、また人格は萬人萬具」であることからその教育は「全般的、普遍的、平等的、経済的」な形式によって「自発能動的」になされなくてはならないとする「生涯的教育」の枠組みを示した。さらに今澤は教育を「生涯的」なものと捉えると学校教育は「一生に対する教育」の準備に過ぎないとして、学校教育終了後の有効な教育手段として「読書」に注目する。 今澤は「生涯的教育」において重要なのは「読書趣味習慣の涵養」にあるとし、公共図書館を「最大多数の為に、その生涯を通じて」「良書を供給し」、「各自の趣味能力」に応じて自発的に教育させる所と定義した。今澤は学校教育と対比しつつ、「生涯的教育」と「自学自修を促す」ことを図書館の独自性と捉え、図書館を学校教育の単なる継続・補助機関ではなく、「生涯的教育」を担う一個の独立した教育機関と位置づけている。今澤は児童への働きかけを重視し、児童図書館論を展開した。この根拠となったのは、生涯的教育に不可欠な読書趣味習慣を幼少の頃より涵養する必要があること、そして図書館教育の主な対象となる「成人教育」の「真の効果を得る」ためには幼少期からの準備が不可欠であるという考え方である。 今澤の図書館論は、教育を「生涯的」スパンで捉えた上で、学校教育と図書館、及び家庭を連絡させ、幼少期から連続的な働きかけを行うことによって「生涯的教育」を達成しようとするものであった。今澤の図書館論は、国家や社会の目的に収束していくという構造上の欠点を内包しているものの、「生涯的教育」の理念の下に公共図書館における教育を模索した先駆的な図書館論であるといえる。 【課題】 今澤の「生涯的教育」論を同時代の社会教育論の中に位置づけること、さらに今澤の仏教思想が「生涯的教育」論の形成とどのようにかかわるのかを明らかにすることが今後の課題である。 br> |
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参考文献 ・今澤慈海『図書館小識』日本図書館協会、1915年 ・今澤慈海「公共図書館の使命と其達成―人生に於ける公共図書館の意義―」『図書館雑誌』第43号、1920年 |
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