生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2013(平成25)年3月2日
 
 

答志島の藻場再生活動と地域の教育力 (とうしじまのもばさいせいかつどうとちいきのきょういくりょく)

キーワード : 官民連携、学社融合、体験学習、地域の教育力
内山淳子(うちやまじゅんこ)
2.藻場再生活動の実施と意義
  
 
 
 
  【藻場再生活動の進行】
 中学生を交えた2010(平成22)年の活動は、前年に青壮年部の幹部が中学校で行った藻場活動に関する「ふるさと講話」から始まった。次年度の活動計画の折に中学校長に相談をし、中学生も体験学習として参加することになった。
 年間を通した活動の工程は、12月に市水産研究所がアラメを木片に培養し、生育させる。5月の実施日前には漁業者が自然岩石300個(2010年実施時)を島に運び、石膏で針金を岩石に付けておく。活動当日、中学生は船に石を積み込み、分乗して岩礁地帯の沖へ出る。青壮年部員に教わりながらアラメの幼体が根付いた木片を岩石に留めつけて海へ投げ入れ、青壮年部員のダイバーが石を追跡して安定する位置に据え置く。6月には魚による食害を防ぐためダイバーがネットを被せて保護をし、市水産研究所とともに推移を観察する。海中ではアラメの根が石に根付くとともに胞子が付着して,周辺に繁茂していくことになる。
 11月には中学生の2度目の活動として成長した海藻と岩石をクレーンで引き上げ、磯焼けが進み衰退した漁場へと移設する。さらに藻場再生を行った場所にアワビの稚貝を放流して貝の個体数を増やしていくといった地道な作業である。市水産研究所は一連の計画・指導を行う。
 この間、同年の寝屋子朋輩である若手漁業者が再び中学校を訪れ島の将来について話をし、市水産研究所は中学校からの依頼を受けて、鳥羽の沿岸海洋環境に関する出前講座を実施するなど交流が深まっていった。
【藻場再生活動における連携までの経緯】
 この藻場再生のための連携実施までには、長年にわたる地域の協力関係の経緯がある。
 市水産研究所は1960年代から地元の水産業振興と海洋保全に取り組み、研究所で研究開発した黒海苔やワカメの種苗を漁業者が実用化して、主要産業の一つに発展させてきた。1970年代には市水産研究所と民間博物館、青年団などの社会教育団体が合同で、海洋汚染に対する啓発活動を行った。官民は地域におけるパートナーであり、課題解決に対して協力する体制が整っていた。
 漁協青壮年部には寝屋子や青年団活動を通して培われた信頼関係とネットワークがあり、漁場の異変を実感して、ボランティアとなる藻場再生の仕事に主体的に協力してきた。答志中学校は「総合的な学習の時間」の開始以前からPTAの協力を得ながら地域の生業を子どもたちに伝える体験活動を重視する校風をもち、1986・87(昭和61・62)年度には文部省の「勤労生産学習」の研究推進校指定を受けている。
 本藻場再生活動は、学校と地域社会とのひとつの連携活動であるが、体験学習のカリキュラムのために計画された活動ではない。活動は漁業者には過去の漁業を振り返り今後を考える機会となり、中学生は島の現況に立ち向かう大人たちの奮闘を間近で見て、活動後には「すべて初めての体験だった」「島の将来を真剣に考えていた」「仕事に誇りを持っていた」との感想が寄せられた。少子化・都市化により地区の寝屋子世代が少なくなっている現在、地域の世代性を継承する新たな試みであると考えられる。
 
 
 
  参考文献
・内山淳子 「地域社会における円環的発達支援−答志島寝屋子制度の変容と存続−」『日本生涯教育学会論集』第29号、2008年
・内山淳子 「地域の課題解決に向けた教育力の形成過程―答志地区の藻場再生活動から」『日本生涯教育学会年報』第32号、2011年
 
 
 
 
  



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