生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2012(平成24)年1月3日
 
 

フォルケホイスコーレ (ふぉるけほいすこーれ)

キーワード : デンマーク、成人教育、民衆教育、ノンフォーマル教育、グルントヴィ
佐藤裕紀(さとうひろき)
1.フォルケホイスコーレ
   
 
 
 
   フォルケホイスコーレ(Folkehøjskole)は、19世紀半ばからの伝統を持つ、デンマークの教育の特徴としてしばしば挙げられる成人向けの学習機関である。全土に70校以上存在しており、16歳半また17歳半以上の人々に対して、全寮制のコースを、数週間の短期コースから数カ月に及ぶ長期コースまで提供している。フォルケホイスコーレに参加するには試験等の選抜過程は存在せず、コースの修了後にも、資格や社会で直接に有用とされる修了証は発行されない。家族向けのコースや子育てをしながら参加できるコースも提供されている。
このフォルケホイスコーレは、デンマーク教育省により自由成人教育として制度的に位置付けられ、法律でも規定されている。そして公的な財政支援が行われ、「学習文化と民主主義の促進に寄与している」として評価をされている。特徴としては、何をカリキュラムとして提供するか、そしてその学習手法に関して、政府から原則的に制約を受けない点と、それらの学習機関の思想の根底に、ニコライ・フレデリク・セヴェリン・グルントヴィ(Nikolaj Frederik Severin Grundtvig)の教育思想があることである。
 彼の教育思想では、1)書物ではなく、人間が実際に話す言葉、2)人生の啓蒙、3)他者との自由な相互作用により、互いの存在の承認、4)生活に根差した知が重視され、出身地域や階級も様々な人々が出会い共に生活し学び合うことが重んじられた。
 高等教育機関に進学する以前の者、長期休暇中を利用する者、仕事をしながら夏季休暇を利用して参加する者、年金生活を送りながら通う者と多様な人々が、長期コースや短期コースに参加している。主に若い年代が長期コースに参加し、高齢になると短期コースに参加する割合が高い。
 学習する科目は、音楽、演劇、映画、デザインといったアートに関する科目やスポーツ、また主に発展途上国でのNGOの経営手法、貧困、難民、移民をめぐる問題、環境問題、労働をめぐる問題といった社会的な課題に対応した科目、また宗教、思想哲学、そしてリーダーシップ、チームビルディング、他者との紛争解決方法、民主的な手続き等、必要以上に職業訓練に結びついた学習等は行われず、幅広い教養や、個人の人間的発達を志向していることが特徴である。
 学習の方法は、主に教員と学習者、及び学習者同士の対話による相互作用が重んじられる。またワークショップやディベート等、多様なアクティビティが行われ、一方的な講義で文献を通して学ぶことよりも、参加しながら実践の中で学ぶことが重んじられている。伝統的に、学習の成果を試験等で客観的に評価するという原理は志向していない。
 1844年に最初の1校ができると、その後も数を増加させていき、ある時期は労働運動や平和運動と密接に結び付き、時代の変化に対応する形で現在に至っている。
 現在のフォルケホイスコーレは以前ほど政治的、また社会的ではないと言える。それでも、生涯学習社会のデンマークにおいて、フォルケホイスコーレは、人々が「何か新しい事を学びたい」「自分を成長させたい」といった欲求を満たし、何かしら社会的に周縁部に置かれた人々が、その立場を好転させるための場としても機能し、生涯学習社会の基盤を担っている。
 
 
 
  参考文献
・佐藤裕紀「デンマークの成人教育機関フォルケホイスコーレの設立と変遷」早稲田大学大学院教育学研究科 比較・国際教育学研究会編『比較・国際教育学論集』第3号、2009年。
・スティーヴン・ボーリッシュ『生者の国−デンマークに学ぶ全員参加の社会』新評論、2011年。
 
 
 
 
   



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