登録/更新年月日:2006(平成18)年10月30日 |
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【課題】 テレビ・ラジオの放送と印刷教材を利用して学ぶ放送大学学生の学習に対する積極的な姿勢は、よく知られるところである。たとえば、平成17(2005)年に筆者が放送大学学習センターの受講者を対象に行った調査結果からも、放送大学の学習について、受講者は肯定的な意識をもっており、彼・彼女らの旺盛な学習意欲が示された。とりわけ、「つねに学びたい気持ちがある」や「できるだけ長く学習を続けたい」といった、学習の継続性にかかわる項目は高い値となっていた。しかも、自律性(autonomy)や自己主導性(self-directedness)といった遠隔学習をすすめるうえでの心的な条件を備えた学習者であることも実証された。このようにみると、アメリカにおいて、遠隔学習者を「動機づけが高く、目的志向で、自発的にやる人」と称したのも納得がいくだろう。 しかしその一方で、同調査により、放送大学で学ぶ遠隔学習者の意識を仔細に探っていくと、遠隔学習に対する孤独感や不安を隠しきれないでいる様子も看取できた。たとえば、「放送大学での学習には孤独を感じる」の項目に注目してみると、その回答のうち、「そう思う」(15.6%)と「まあそう思う」(26.0%)の合計は41.6%にもなっていた。放送大学は現在、全国に50の学習センターと7つのサテライトセンターを擁し、そこでの面接授業やサークル活動、さらには学友会・同窓会を通して、教員と学生、また学生同士の交流が図られている。しかし、この調査結果をみるかぎり、放送大学の学習について孤独感を抱く学習者が少なからず存在することも事実である。 さらに、放送大学での学習をやり遂げる自信があると思っていた者でさえも、そのうちの半数以上(54.4%)は学習をすすめるにあたって、不安や戸惑いを実際には感じたと回答していたのである。しかも、その不安をもっとも感じた時期は、「学習の開始時」(37.1%)を先頭にして、「学習のあいだを通して」(32.0%)、「学習の終了時(レポートや試験の時)」(30.9%)といってみれば学習プロセスを通じて続いていた。 このようにみると、学習に対する積極性と不安感を併せ持ったアンビバレントな意識こそ、遠隔学習者の特性と指摘できるだろう。だが、それだからこそ、遠隔学習者は積極的な学習支援を必要とする存在であることが、あらためて確認できたのである。 放送大学で学ぶ遠隔学習者に対する積極的な学習支援という点では、これまでの学習支援に加えて、学習支援者の一層の充実が求められるだろう。実際、この調査回答者のうちの65%が、放送大学で学習するうえで、個別の学習支援者を望んでいたのである。遠隔教育における学習支援者としては、学習アドバイザー、チューター(tutor)、メンター(mentor)などがあげられる。なかでも、メンターは信頼のおける成熟した助言者を意味するため、遠隔教育では、不安の解消などの精神的なサポートも行う学習支援者として、その役割が重視されている。 これらをふまえると、学習者に対する積極的な学習支援、とりわけ学習支援者の拡充こそが、放送大学における学習の成否を左右するといっても過言ではないだろう。 br> |
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参考文献 ・熊谷愼之輔「学習形態・方法の新展開」鈴木眞理/津田英二編『生涯学習の支援論』学文社、2003年 ・熊谷愼之輔「放送大学にみる遠隔学習者の特性−自己主導的学習の観点から−」日本生涯教育学会年報、第26号、2005年 ・放送大学編『放送大学学生動態調査報告書:大学は開かれているか』1998年 ・文部科学省編「特集 学びの扉を開く放送大学」マナビィ、ぎょうせい、48号、2005年 |
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