生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2012(平成24)年8月28日
 
 

三重大学における初年次キャリア教育と熟議 (みえだいがくにおけるしょねんじきゃりあきょういくとじゅくぎ)

“career education in first-year experience” and “Jukugi” in Mie University
キーワード : 初年次教育、キャリア教育、熟議、産学官連携
宮崎冴子(みやざきさえこ)
1.初年次キャリア教育と熟議
   
 
 
 
  【定義】
 ここでいう「キャリア」とは次の定義による。1971年、当時アメリカ合衆国連邦教育局長官Marland,S,P,Jrが世界初のキャリア教育改革を行った。それを受けて、当時キャリア教育次官補Hoyt,K,B,が発表した「キャリアとは生涯における仕事のすべて。仕事とは賃金支給の有無を問わず、自分や誰かのために行う継続的行為」という公式定義である。(『キャリア教育入門』1975年)
 「熟議」とは、多くの当事者による「熟慮」と「討議」を重ねて政策提言することで、具体的には課題について学習・熟慮し、討議することで互いの立場や果たすべき役割への理解が深まるとともに、解決策が洗練され、個々人が納得して自分の役割を果たすようになるプロセスをいう。(文部科学省、平成23(2011)年)
【説明】
 三重大学では共通教育の初年次キャリア教育科目として62コマ(平成23(2011)年)を開講している。そのうち『キャリア形成・能力開発』では、学生が授業中に「熟議」の準備をして、本番ではファシリテーター、PC記録者、総合司会、受付、機材係等を担当し、運営した。メインテーマは「熟議 2011 in 三重大学 対話と協働〜未来に向けて〜」、サブテーマは、A.教育(1〜4班)「[確かな学力]と[豊かな人間性]を備えるための学校における方策づくり、B.就労(5〜9班)「職場で求められる人になるために今すべきこと」、C.地域(10〜13班)「地域の人と絆を深めるために私たちができること」で、当日は学生・院生、教員、行政、企業、NPO等119名が熟議し、課題を出しあい、問題解決のための仕組みづくり等を提言した。全体発表では各班が4枚のパワーポイントで発表し、文部科学副大臣の講評があった。実施体制は大学・文部科学省・三重県・三重県教育委員会と学生実行委員会との共催とし、参加者は関係者を含め合計182名であった。参加者の事後評価(95通=有効回答率61.7%)では「全体に非常に満足+やや満足」が88.4%、「学生による授業評価」は「総合的に満足」が平均4.61(5段階)、「この授業で学業への興味・関心・意欲が高まった」が4.45である。また、三重大学教育目標の「感じる力」では感性、モチベーション、「考える力」では課題探求・解決力、「コミュニケーション力」では情報発信力、指導力・協調性、社会人としての態度が大いに身についたと答えている。
【課題】
 授業では、初回からブレーンストーミングやバズ・セッション、プレゼンテーション、KJ法の実習をし、宿題も出した。課題であった準備期間の不足には毎回の授業で到達目標を共有し、作業時間を計りメリハリをつけた。学生たちは本番で多種多様な意見に出会って“刺激のシャワー”を浴び、人生の先輩方から多くのこと学んで成長した。このような授業形態では、学生が当事者意識を持って課題解決に取り組むので、「熟議」は教材として有用性・新規性があり、自主的・能動的学習を旨とするキャリア教育の目的に合致する。この「熟議」で産学官連携が強化・拡充されて、大学はさらに地域貢献ができるし、地域社会は大学のカリキュラムに密接に関わり、「地域ぐるみ」で若者を育成することができるので、その成果は大きい。今後への課題はファシリテーターの更なるスキルアップをして、「熟議」の最後のまとめにもう少し時間を増やすことである。
 
 
 
  参考文献
・国立大学法人三重大学『2011年度キャリア教育報告書 共通教育科目[キャリア形成・能力開発]における地域と共生する大学づくりのための全国縦断熟議 [熟議2011 in 三重大学 対話と協働〜未来に向けて〜]』2011年(「熟議」実施日:2011年7月16日)
 
 
 
 
   



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