生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

スウェーデンの生涯学習支援 (すうぇーでんのしょうがくがくしゅうしえん)

lifelong learning support in Sweden
キーワード : 修学支援対策の充実、民衆教育、成人教育、国民に重層的に浸透、受講生は約300万人
野崎俊一(のざきしゅんいち)
1.スウェーデンの生涯学習支援
   
 
 
 
   教育の最終道標は「生涯学習社会」であるとすれば、この理念を実現し、持続可能な社会として取り組んでいるのが北欧のスウェーデン。同国の生活基本理念である<機会均等>、<自由>、<平等>など、八つの開かれた民主主義は教育界においても適応され、この名のもとに数多くの改革が行なわれてきた。つまり、Rolling reform(常に改革)の実践であり、1996年には「生涯学習の年」を掲げている。もっとも「生涯学習」の言葉はまだ成立するに至っていない。これはいわばひとつの理念であり、一般的には民衆教育(Folkbildning)とか成人教育(Vuxenut)を指す。
 義務教育の基礎学校は、6歳児から就学していた教育期間を1年延長し、今は実質10年になった。また、義務教育から高校教育への進学率は約98パーセントに達し、大学進学率35パーセントと試算されるなど、高等教育の門戸開放も相次ぐ改革を機に段階的に広がっている。この結果、成人教育は、成人人口550万人の半数を超える国民が何らかの形で成人教育機関に籍をおく盛況ぶり。
 「学習社会」の定義を老若男女がともに死ぬまで<自己を改造しつつ、成長しつつ、進歩しつつ行く社会>とすれば、スウェーデンの成人教育は国民教化運動として起こったと言えるだろう。民衆運動の過程の中で生まれた成人教育は、学校教育とともに良質な国民パワーを育成する両輪となっている。その種類は設置主体別にみると100年の伝統を持つ国民大学(Folkhogskola)がある。これに、国立通信制成人教育(SSV)、専門的職業教育(KY)がある。
 また、世代間の教育格差是正とリカレント教育の補完を目的に20歳以上を対象に地方自治体のコミューンが主体とするのが一般成人教育「コンブックス」(Komvux)。このほか、移民用スウェーデン語コース(SFI)がある。これに労働市場庁(AMU)の職業訓練教育や各企業による企業内教育(Personalutbildning)、そして政党などの学習団体が運営する中核的存在の「学習サークル」(Studiecirkel)がある。
 「学習サークル」は、19世紀後半に期せずして起こった民衆運動(正規の学校教育組織の欠陥を補うことを目的に、民間から自発的に生まれた。俗に自由教会運動、アメリカの影響とされる禁酒運動、イギリスからもたらされた消費者と生産者運動の三大運動)が基盤になって発足し、労働、教育、スポーツ、宗教団体など政府公認の10団体が国やコミューンからの補助金で運営に当たっている。科目は宗教、語学、心理学、文学、芸術、手工芸、演劇、音楽、歴史、地理、政治・法律、産業、経済、自然科学、医学、スポーツと多種多彩で、その数は300-400科目におよぶ。
 受講生数は、今は「300万人」。一時は280万人台を低迷していた。原因はなんだったのか。教育関係者は、一様にバブル経済崩壊による補助金率の削減や各種の成人教育機関の進出をその要因としている。とは言うものの、成人人口の半数を超える人々が同じ成人教育である国民高等学校やコンブックスをはるかにしのぐ勢いで学んでおり、2001年から再び300万人台に回復していることは驚異的な数字と言えよう。まさに、国民生活に重層的に浸透し、リカレント教育の象徴とも言うべき、民衆教育の担い手になっている。

 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
   



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