生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

家庭教育と父親 (かていきょういくとちちおや)

father's role in family education
キーワード : 父親の役割、権威の原体験、性役割分業観の是正、男女共同参画社会、父親としてのエンパワーメント
梨子千代美(なしちよみ)
1.説明、動向
   
 
 
 
  【説明】
 生まれたばかりの乳児にとって、母親とは、心地よさを与えてくれる存在にすぎない。子どもが母親とは何であるかを知るのは、母親とは別の役割を演じる父親が登場してからである。子どもが4歳、5歳程度まで成長すると、子ども自身の認知的発達に加え、行動の自由が拡大し、母親一人で子どもの全ての要求に応えることが難しくなる。そこで、多くの父親は、母親の要請に応じて、母親とは異なる役割を演じる。その結果として、子どもにとって意味のある人間、母親とは別の人間として、父親が子どもに認識され、父親との対照で、母親の役割が理解される。
 以上の様に認識される父親であるが、家庭での役割には一般的には下記のような傾向がみられる。
 第一に、家族という集団全体の統率者である。近年、職業を持つ女性が増加する傾向にあるが、それでも一般的に家計は父親により維持されている。さらに、男女共同参画社会の実現が目指されているが、代表性という面においても、男性中心社会の慣習が根強く残り、たとえ母親が経済的に父親より優位であっても、対外的に家族を代表する人間は父親であることが多い。
 第二に、家族と社会とをつなぐ役割である。一般的に父親は職業を持っている。職業は、先に示した、第一の役割の基礎になるとともに、必然的に家族を超えた社会とのつながりを持つ。その意味で、父親は職業を持った大人のモデルでもある。
 第三に、男性のモデルになる。父親は、息子にとっては同性のモデル、娘にとっては異性のモデルとなる。さらに、両親の関係は、子どもにとっては男性と女性の関係であるため、男性と女性がいかなる関係を持つのかのモデルにもなる。
 第四に、前述したことを総合した結果、父親は子どもにとって権威の原体験となる。父親の権威については、精神分析のS・フロイトが最も深く考察したと言われるが、父親は、自分に卓越し、自分を抑圧するこわくて憎い存在であると同時に、自分を可愛がってくれる敬愛の対象でもある。そうした父親へのおそれがあるからこそ、子どもは、母親との愛着関係から自立することが可能であり、同時に父親を内に取り込むことにより、超自我を形成して自己を内的にコントロールすることができる。
【動向】
 家庭での父親の役割は上記のとおりであるが、父親が依拠している社会そのものと家族のあり方により異なる。特に、変化が著しい現代社会では、上記の様な父親の役割がそのまま当てはまるわけではない。敗戦による日本の家族制度を含む公的価値体系の崩壊と家庭生活の民主化により、父親の権威は失墜し、弱体化した。高度経済成長期以降の日本では、家庭教育力の低下が強く指摘され、従来の母子関係偏重の子育てへの反省を迫られた。そして、家庭における父親存在の重要性が強調された。
 加えて、父親の権威を揺るがす要因となったものは、女性の地位の向上である。国際的には、1975年の国際婦人年を契機として、性役割分業観の是正が試みられ、家庭生活での役割分担のあり方が大きく変化し、労働に奔走することを余儀なくされてきた男性に家庭人としての側面を回復させた。
 日本では、1999年に男女共同参画社会基本法が公布・施行され、家庭教育における父親の存在と役割に向けられる関心は高まった。近年は、父親としてのエンパワーメントのための支援が国、地方自治体、民間団体により推進されている。
 
 
 
  参考文献
・依田明、小川捷之編『現代のエスプリ96 父親 核家族時代の役割』至文堂、昭和50(1975)年
・大日向雅美他『父性の発達-新しい家族づくり-』家政教育社、平成6(1994)年
・大日向雅美『母性の研究』川島書店、昭和63(1988)年
・葛原生子「新しい時代の家庭教育支援者とその育成に向けて」日本生涯教育学会年報第25号、平成16(2004)年
・松下倶子「教育改革の時代における家庭教育」日本生涯教育学会年報第22号、平成13(2001)年
・山村賢明『家庭教育』放送大学教育振興会、昭和60(1985)年
 
 
 
 
   



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