生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年1月27日
 
 

「新しい公共」と生涯学習推進 (あたらしいこうきょうとしょうがいがくしゅうすいしん)

キーワード : 新しい公共、NPO、自立と寛容の精神、個人の需要と社会の要請、地域子ども教室推進事業
山本裕一(やまもとゆういち)
2.「新しい公共」と生涯学習の推進
  
 
 
 
  【経緯】
 教育基本法の改正を提言した中央教育審議会答申(平成15年3月)では、21世紀の教育が目指す目標のなかで「新しい公共」について指摘し、また、その後の中央教育審議会の生涯学習分科会の審議経過の報告(平成16年3月)においては、生涯学習との関連の中で「新しい公共」について記述している。
【説明】
 上記答申では、新しい「公共」を創造し、21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成を21世紀の教育の目標として掲げ、次のように指摘している。
 「自分たちの力でより良い国づくり、社会づくりに取り組むことは、民主主義社会における国民の責務である。国家や社会の在り方は、その構成員である国民の意思によってより良いものに変わり得るものである。しかしながら、これまで日本人は、ややもすると国や社会は誰かがつくってくれるものとの意識が強かった。これからは、国や社会の問題を自分自身の問題として考え、そのために積極的に行動するという『公共心』を重視する必要がある。」
 また、中央教育審議会生涯学習分科会による報告では、生涯学習を振興していく上での基本的な考え方の一つとして、「個人の需要」と「社会の要請」のバランスを保つことを指摘した。すなわち、学習機会は個人の興味、関心、希望に沿った形で提供されがちだが、社会の存続のためには社会共通の課題に取り組む必要があり、生涯学習の振興にあっては両者のバランスが必要であるとした。さらに、生涯学習振興のために今後重視すべき視点として、「新しい公共」の視点をあげ、これまでともすれば行政に依存しがちな発想を転換し、個人やNPO等が社会形成に主体的に参画し、互恵の精神に基づく新しい公共の観点に視点を向ける必要があるとしている。
 この分科会報告では行政として果たすべき役割をあげ、国については自立した個人の資質・能力の向上を通して、国民全体としての資質・能力の向上を目指すことをナショナルミニマムの確保のために必要不可欠なものとして位置づける必要があるとしている。
地方公共団体においては、たとえば東京都生涯学習審議会答申「地域における『新しい公共』を生み出す生涯学習の推進」(平成14年12月)がある。同答申では、新しい公共の創生を生涯学習の観点から言い換えれば「地域の課題解決に向けて実践的に学び、その成果を新たなまちづくりにつなげていくこと」であるとし、地域住民が主体的に「新しい公共」を生み出すための学習となる「地域をつくる学び合い」の活動を支援することが、今後の生涯学習行政に求められている点であるとしている。
 国の施策として文部科学省が平成16年度から実施している「地域子ども教室推進事業」は、小・中学生を対象に放課後や週末等に安全に安心して遊ぶことができる場に子どもの居場所(活動拠点)を設け、地域の大人たちの協力を得てスポーツや文化活動など様々な体験活動や交流活動を行う事業である。このため、地域住民のこれまでにない参画が求められるところであり、「地域の子どもはそこに住む人々による自主的・主体的な活動のなかで育てていく」という意識が高まり、子どもの活動拠点の整備という切り口から、地域社会の新たな公共実現に向けて、その成果が期待されるところである。
 
 
 
  参考文献
・ 中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」(平成15年3月20日)
・ 中央教育審議会生涯学習分科会「今後の生涯学習の振興方策について(審議経過の報告)」(平成16年3月29日)
・ 東京都生涯学習審議会答申「地域における『新しい公共』を生み出す生涯学習の推進〜担い手としての中高年世代への期待〜」(平成14年12月)
・ 地域子ども教室推進事業については、http://www.ibasyo.com/参照
 
 
 
 
  



『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。
<トップページへ戻る
 
       
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved.