生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2006(平成18)年11月2日
 
 

ジェロゴジー(エルダーゴジー) (じぇろごじぃ(えるだぁごじぃ))

gerogogy(eldergogy)
キーワード : ペダゴジー、アンドラゴジー、高齢学習者、ソーシャルワーク
伊藤真木子(いとうまきこ)
2.ソーシャルワーク論からの発想・展開
  
 
 
 
   ジェロゴジーの考え方や用語は、ヨーロッパとりわけドイツにおいてはまた異なる文脈で理解される。1つには、用語を広めたとされるMieskes,H.の論文(1974)において、ゲラゴギーク(Geragogik)は「加齢の過程におけるペダゴジー的な状況や結果に関する科学」と定義されていたように、ジェロゴジーはペダゴジーとの関連で説明されてきたという点である。2つ目に、医療・福祉サービス従事者の間で、痴呆の高齢者のケアやナーシングホームにおけるケアなど、細分化される高齢者のニーズに対応するための実践的な必要から注目されてきたという経緯をもつ点である。そして3つ目に、ソーシャルワークとの関連が強調されてきたという点であり、近年では、クリティカル・ジェロゴジー、インテグラル・ジェロゴジーというように、特定の立場・考え方を強調するかたちで形容語を伴い用いられる向きも確認できる。
 クリティカル・ジェロゴジーという表現においては、ジェロゴジーが全体として高齢学習者の特性を心身機能の側面から強調するあまり、弱者としての高齢者像を固定化させる機能を有すること、社会への適応を志向する中産階級層を前提する傾向にあること、等の批判的認識が示され、高齢者のエンパワーメントを目指す教育実践が論じられる。ソーシャルワークにおいて、社会的・政治的変革に向けた介入を考える際、基軸となる議論といえるであろう。
 インテグラル・ジェロゴジーという表現においては、アンドラゴジーとは区別してジェロゴジーを理解することの意味は、心身機能の虚弱な高齢者層、独居老人・施設入居者などを想定し、ケアや治療的な視点を有することにこそあるとする。性別・民族・階層を問わず、人間が直面する自分自身の肉体的・精神的な衰え、これらに関して高齢者およびその家族のエンパワーメントを志向する教育的実践が論じられるのである。ソーシャルワークにおいて、私的に内面化してきた、あるいは対人関係的な次元で埋め込まれた抑圧構造に対する批判的思考を喚起する介入を考える際、基軸となる議論といえるであろう。
 なお、Martha,Tyler,Johnの『Geragogy:A Theory for Teaching the Elderly』(1988)は、ジェロゴジーを冠した単著として今日確認しうる唯一のものであるが、ジェロゴジーを、学習の目的や動機を明確には持ちえず日常生活を送るのに特別な援助を必要とする超高齢層の教育のための理論と規定していた。ここで据えられた高齢者像に対し、批判が集中したのはいうまでもない。
 ジェロゴジーという考え方は、一方では、自立的・自律的な高齢者イメージを定着・実現させるという近代的価値の実現に向けた実践を、他方では、社会状況的に必ず存在する依存的な高齢者イメージに即して教育や学習の意味を追及するという近代的価値を超える挑戦を、何度となく繰り返し求めてくるものなのだといえるであろう。
 
 
 
  参考文献
 
 
 
 
  



『生涯学習研究e事典』の使用にあたっては、必ず使用許諾条件をご参照ください。
<トップページへ戻る
 
       
Copyright(c)2005,日本生涯教育学会.Allrights reserved.